第83章 新しい生活
隠は、震えるゆきの訴えに折れて、事情を伏せることを約束した。
乱れた隊服を整え、必死に平静を装って義勇との稽古に臨むゆきだったが、義勇の鋭い目を欺くことは難しかった。
「…動きが硬い。右手を庇っているな」
竹刀を交える中、義勇はゆきの手首の僅かな震えを見逃さなかった。
稽古が終わり、そそくさとに帰ろうとするゆきの右腕を、義勇は背後から迷わず掴んだ。
「あっ…!」
あえて強く義勇は、握りしめた…手首に激痛が走り、ゆきは力なく義勇の胸の中へと仰向けに倒れ込んだ。
背中に伝わる義勇の体温と、耳元で響く鼓動。
予期せぬゆきとの密着に、義勇の胸もまた、締め付けられるような高鳴りを覚えた。
「怪我を隠していたな?…動くな」
「ま、まってください!」
そんな言葉を無視して、義勇はゆきを部屋へと連れて行った。
義勇はゆきを自分の前に座らせると、自らはその背後に回り込んだ。
視線が合わない二人…沈黙が続く…背後から伸びてきた大きな手が、ゆきの震える手首を優しく掴む…。
えっ…// 義勇さんが…近いよ…
義勇はゆきの背中を包み込むような姿勢で、丁寧に湿布を貼り、指先で確かめるようにゆっくりと包帯を巻いていった。
髪から漂うゆきのいつもの甘い香りと、手首から伝わる柔らかい肌の感触…。触れるたびに、義勇の心は激しく揺れる。だが、その心の揺れに重なるように、恋人であるしのぶの微笑みが脳裏を過る…。
俺は……何をしている。胡蝶がいながら…
裏切りにも似た罪悪感が襲う…。しかし、今この瞬間に俺の腕の中にゆきがいる…このまま後から抱きしめたい衝動に駆られる。
「すまない」
何に対しての謝罪か、自分でも分からなかった。
ただ、胡蝶に悪いと思いながらも、俺は背後からゆきを囲むその腕を、どうしても解くことができない…。
このままもう少しお前の甘い香りを側で感じていたい…。
「あ、あの…義勇さん?」
手当が終わり動かない義勇…これ以上こんなに近くにいてはいけないと思いゆきは、背後の義勇の方に顔を向けた…
至近距離でゆきに、不意打ちに振り向かれ義勇は、驚き…顔を赤く染めた…。