第83章 新しい生活
視線を交わした瞬間、二人の間に甘く、切ない沈黙が流れた。
顔を赤く染めた義勇の表情に、ゆきもまた釣られるように頬を桜色に染めた。
「あ…あの、ありがとうございました」
これ以上この温もりに触れていてはいけない。そう直感したゆきは、慌てて義勇の腕の中から逃れようとした。
しかし、至近距離で向かい合ったからこそ、義勇の鋭い眼差しは、隠し通そうとしていたゆきの秘密を見つけてしまう。
「…待て。お前、隊服の第二ボタンが外れそうになっているじゃないか」
その言葉に、ゆきの血の気が引いた…。
脳裏に今朝の忌まわしい出来事を思い出す…無理やり引き剥がされそうになった胸元…抵抗した時の恐怖…。
思わず、守るように胸元をギュッと手繰り寄せてしまった。
その過剰なまでの反応に、義勇はゆきに何かあった事を悟る。
「…何があった」
「な、なんでもありません! 稽古中にどこかに引っ掛けただけで…何もないんです…」
必死にはぐらかそうとするゆき…だが、隠し事は義勇には通用しなかった。
右手の怪我、そして明らかに何かに怯えている不自然な態度。
義勇は、ゆきの腰に強引に腕を回した。
「えっ…!?」
抵抗する隙もなく、ゆきの体は宙を浮き、あぐらをかいた義勇の膝の上へと抱き寄せられた。
背後から抱きすくめられる形ではなく、今度は正面から、逃げ場を塞ぐように…。
「答えるまで、帰さないと言ったらどうする?」
至近距離で見つめてくる義勇の…膝の上で固まるゆきの体温を感じながら、義勇は自問自答する。
これは、師範としての心配なのか。
それとも、男としてゆきが気になるのか…
絡み合う視線の中で、義勇の手は、震えるゆきの腰をさらに強く抱き寄せる。
さっきよりもっと近くにゆきがいる…甘い香りが俺に移るくらい近くにお前がいる…
「は、離して下さい!早く帰らないと…」
「駄目だ。何があった」
「な、何もないです!門限もあるし帰らないと…」
「門限など関係ない…帰さない」
「な、何を言ってるんですか?叱られます…」
「誰にだ?俺は柱だ…俺が帰さないと言っても誰も文句は言えない…」
義勇さんは、いったい何を言ってるの?