第83章 新しい生活
義勇の屋敷を離れ、隊士宿舎での生活が始まってから初めての義勇の稽古の日。
ゆきは早朝から身支度を整えていた。
慣れない集団生活、そして先日しのぶから告げられた、棘のある言葉が、胸の奥にずっと残っていた。
宿舎の門を出ようとしたその時、早朝稽古を終えた男たちの集団とかち合った。
以前、下卑た笑みで自分を囲んだ者たちだ。彼らはゆきの姿を認めると、待ってましたと言わんばかりに道を防ぐ。
「おいおい、今日は水柱様のお屋敷で稽古かよ。随分と嬉しそうじゃねえか」
「今度はどんな稽古をつけてもらうんだ? 柱を二人も手玉に取る秘訣、俺たちにも教えてくれよ」
「今日も可愛い顔してるな〜」
心無い言葉が次々と投げつけられる。屈辱に視界が歪みそうになるが、ここで言い返せば彼らの思う壺だ。「まともに相手をしてはいけない」自分にそう言い聞かせ、ゆきは俯いたまま、逃げるように宿舎の門を後にした。
屋敷へ続く道すがら、竹林を揺らす風の音が耳に届く。
ゆきは、楽しい事を考えようとした…
そうだ!あさひという初めての友人ができた。だが、すぐにまた違う事を考えてしまう…。
義勇さんと一緒に居てはいけないと宿舎へ移ったはずなのに、一歩外に出れば悪意に晒される日々。それにしのぶの「継子を解消してほしい」という言葉が、頭を離れない。
しのぶさんは、義勇さんとお付き合いしている。私が邪魔で当然よね…
もうすぐ屋敷に着いてしまう…
義勇に会えば、また自分の心の弱さを見透かされてしまうのではないか。そんな不安を必死に打ち消し、乱れる呼吸を整えながら、見覚えのある角を曲がった。
その瞬間、ゆきの鼓動が止まりそうになった。
見慣れた屋敷の門の前。そこには、じっと一点を見つめた一人の男が立っていた。
「遅かったな」
「ぎ、義勇さん…」
変わらぬ低い声。自分を待っていたのだと確信した瞬間、ゆきの胸は張り裂けんばかりに震えた。
もう…惑わさないでよ…何でこんな所に…立っているのよ…。
何で、私を待っているのよ…
「まだ飯は食べてないだろ?用意してある」
義勇は、屋敷の中に入っていった。
義勇の優しさが…ゆきの身に沁みる…