第83章 新しい生活
合同稽古の休憩中、汗を拭うゆきの周りを、ニヤニヤしながら男たちが囲んだ。
「おいおい、さすが水柱の継子様だ。汗ばんだ姿も随分と色っぽいじゃないか」
一人の隊士が茶化すように言うと、周りの男たちも同調してニヤニヤと顔を寄せた。彼らにとって、二人の柱から気にかけられているゆきは、格好のからかいの対象だった。
「霞柱に水柱…。二人の柱を同時に手玉に取るなんて、大したもんだよ。一体どんな手を使って、あの人たちを骨抜きにしたんだ?」
男達の視線が、汗で張り付いた隊服越しにゆきの体をなめる。
屈辱に耐え、俯くことしかできないゆきの前に、ある人が現れた。
「あら、随分と賑やかですね。皆さん、もう次の稽古の準備はできたのですか?」
男たちは慌てて飛び起き、一斉に姿勢を正した。
そこに立っていたのは、蟲柱・胡蝶しのぶだった。
「お疲れ様です、胡蝶様!」
「ええ。皆さんは早く持ち場へ戻りなさい」
しのぶは柔らかな微笑みを浮かべたまま男たちを追い払うと、一人残されたゆきに歩み寄り「少し、お話しできますか?」と誘った。
ゆきは小さく頷く。
人気のない廊下へ出ると、しのぶは足を止め、鋭い視線をゆきに向けた。
「冨岡さんの事ですが…彼は言葉が足りないから、誤解されやすいでしょう? 私とは随分と親しくさせていただいていますし、彼のことは私が一番よく理解しているつもりなんです」
それは、暗に「二人の邪魔をしないでほしい」という忠告だった。しのぶの言葉は丁寧だが、その裏には棘が隠されているのが伝わる。
「正直に言いますね。貴女が彼の継子であり続けることは、彼にとっても貴女にとっても、あまり良いことだとは思えないのです。…本当は、早く解消していただきたいのですけれど」
確実に逃げ道を塞ぐような言葉。
継子を解消してくれないのは…義勇さんの方なのに…
ゆきは何も言葉を返せず、ただ静かに、震える手を隠して頷くことしかできなかった。
夕食時また隣の部屋のあさひが、声をかけてくれた。彼女は、何の詮索もせずゆきに、他愛もない話しかしなかった。
あさひなりに気を使ってくれている、嬉しかった…生まれて初めての同性の友達と言うものが出来た。