第83章 新しい生活
廊下からは、朝の訪れを告げる隊士たちの騒がしい声が聞こえ始めていた。
「ほら…みんな起きてきたよ…」
無一郎は名残惜しそうにベッドから身を起こすと、「はぁ」と小さく溜め息をついた。
そして音もなく窓際へ歩み寄り、冷たい朝の空気を招き入れるように窓を開け放った。
縁に手をかけ、外へと身を乗り出す無一郎
「…ここにずっと居る必要なんてない。何かあったら、いつでも僕の所においで」
その言葉は優しく、自分の元に来て欲しいと言う気持ちが詰まっているように感じた。
部屋を後にしようと一度は身を翻した無一郎だったが、ふと思い出したかのように足を止め、肩越しに冷めた視線を投げかける。
「ねえ、最後に一つだけ聞いていい? …冨岡さんの継子、もう解消したんだよね?」
ゆきの心臓がドクリと鳴る…。
無機質なまでに澄んだ無一郎の瞳に見透かされているようで、咄嗟に言葉が出てこない…。
目が泳ぐ…肺の空気をすべて吐き出すように、小さく、震える声で答えた。
「……して、ない……」
「ふーん。そうなんだ」
感情の読み取れない短い相槌。
無一郎はそれ以上何も追及せず、微笑を一瞬だけ浮かべると、窓の外へと音もなく姿を消した。
一人残された部屋で、ゆきは乱れた呼吸を整える。
義勇の屋敷を出て、この隊士宿舎に移り住むことで一区切りをつけたつもりだった。
けれど、継子の解消は義勇は許さなかった。まだまだ実力不足で義勇が、師範として育てていきたいと言われれば言い返す術はなかった。隊士達とここで週の半分は、稽古して残りは、義勇に稽古をつけてもらう話になっていた。
無一郎の去った窓から入り込む風は冷たく、ゆきの体を冷やしていく…
しばらくして、ゆきは緊張の面持ちで初めての合同稽古へと向かった。
稽古場に集まった隊士たちはそのほとんどが荒々しい男たちで、数少ない女性隊士であるゆきの姿は、ひどく浮いて見えた。
義勇の「継子」という肩書きや、異例の経緯で入隊した噂も相まって、周囲からは遠慮のない好奇の視線が突き刺さる。
男たちの値踏みするような視線に晒されながら、ゆきは、稽古に参加した。