第83章 新しい生活
しのぶが、去った後義勇は一人考え込んでいた。
義勇の脳裏をよぎるのは、昨夜感じたゆきの柔らかな体温と、甘い吐息。
一度その熱を知ってしまえば、彼女のいない生活など、彩りを失った灰色の世界も同然だ。
だが、それは俺の我儘…俺が胡蝶を選んだんだ…ゆきを縛り付けるのはお門違いだ。
だけど居なくなるのは嫌だ…。
しかし…事態は義勇の葛藤を置き去りにしたまま、動き出す。
しのぶは確信していた。
義勇の瞳の奥に揺らめく情熱が、自分ではなく、ずっと屋敷に居座り続ける「ゆき」に向けられていることに。
その繋がりを断つために、しのぶは産屋敷へ働きかけ、ゆきを隊士宿舎へと移す準備を整えさせたのだった。
ゆき自身、自責の念に駆られていた。
「私はここにいてはいけない。義勇さんの、そしてしのぶさんの邪魔をしてはいけない…」
もともと屋敷を出る事を、望んでいたゆきにとって、しのぶの介入は、迷いを断ち切る最後の背中押しに過ぎなかった。
お館様の承諾も降り、ゆきは荷造りを進めていた。
そんなゆきの部屋に義勇が入ってきた。荷造りしているゆきの手首を掴み立ち上がらせた
「本当に、行くのか」
義勇はゆきを部屋の隅へ追い詰める。
宿舎への入居を勝手に決めた事への、怒りとも悲しみともつかない感情が胸を突き上げる。
「はい。今まで、ありがとうございました」
淡々と告げるゆきの唇を、今すぐ塞いでしまいたい。自分を呼ぶその声が、明日からこの屋敷に響かなくなるという現実に、義勇は耐えられなかった。
「行かせないと言ったら、どうする」
義勇の手が、ゆきの肩を強く掴んだ。
しのぶを選んだはずなのに、指先が、肌が、魂が、お前を求めている。お前を宿舎へ送り出すことは、自分の心の一部を引き剥がされるような痛みなんだ…。
「俺のそばにいろ。」
「何言ってるんですか?もう決まった事だしやはり一つ屋根の下では暮らせません」
「継子と師範だ!何がいけない?」
「私達は、またいつか一線を越えてしまう。だから離れていないといけないんです。」
もうお前が酔っていた夜に一線は、超えている…本当に記憶がないようだな…抱いたのに…