第82章 甘い私の身体〜時透無一郎 不死川実弥 冨岡義勇【R強強】
義勇は一睡もできぬまま、昨夜のゆきの叫びを思い出していた。
かつて刀鍛冶の里で、ゆきを抱いたあの時。熱い肌の重なりの中で、義勇は答えを求めていた。けれど、ゆきから「好き」という言葉は聞けなかった。はっきりしないゆきの態度に、心身ともに疲れ果てた義勇が選んだのは、隣で微笑むしのぶという「形ある安らぎ」だった。
お前が、何も言わなかったからだ…だから胡蝶を選んだ。
そう自分に言い聞かせ、壁に当てた手に力を込める。
翌朝、現れたゆきは驚くほど「普通」だった。
淡々と立ち振る舞うゆきに、義勇は言いようのない戸惑いを覚える。
「今日は柱合会議だ…行くぞ」
「はい」
その他人行儀な返答…淋しい…
産屋敷邸に到着すると、ゆきの表情が、駆け寄ってきた甘露寺の笑顔にふわりと緩んだ。
「ゆきちゃん! 会いたかったわぁ!」
蜜璃の抱擁に身を預け少し微笑む彼女を見て、義勇の心は複雑に揺れる。
久しぶりに笑顔が見れた…。良かった…
「ゆき!」
無一郎が美月を伴って現れた。周囲の視線など意に介さず、迷いのない足取りでゆきを抱きしめる。
「やっと見つけた」
有無を言わさぬ強引な抱擁。胡蝶を選んだのに…時透がゆきに触れると腹が立つ
嫉妬に揺れる義勇の腕を、しのぶが静かに引いた。
「行きましょう、冨岡さん。お仕事ですよ」
嫉妬に歪む義勇の瞳を覗き込むしのぶの目は、すべてを見透かしたように感じた。
自分が彼女を選んだはずなのに、心は制御不能なほどにゆきを追いかけてしまう。
会議が終わり、解散の刻。蜜璃が弾んだ声でゆきを食事に誘った。
「冨岡さん、ゆきちゃんをお借りしてもいいかしら? 伊黒さんも一緒なの!」
戸惑うゆきを横目に、蜜璃は強引に義勇の許可を取り付ける。
「ああ、構わない」
伊黒と蜜璃に挟まれ、遠ざかっていくゆきの後ろ姿。
かつて自分が望んだ「好き」という言葉を、今度は彼女が無一郎に捧げるのではないか。
そんな予感に、義勇は隣にいるしのぶの温もりさえ忘れて後悔で立ち尽くしていた。