第81章 見せつけられる愛
夜が明け始めた頃、義勇は浅い眠りから目を覚ました。
腕の中にはしのぶの柔らかな体温があるが、義勇の心は昨夜触れたもう一つの体温を探して、隣の寝床へと意識が向かう。
ゆきが居ないような気がして、慌てて身を起こそうとした義勇の腕を、目覚めたばかりのしのぶが優しく、引き留めた。
「どこへ行くのですか?ゆきさんは、もういませんよ。 せっかく二人きりになれたのです。…もう少しだけ、こうしていましょう?義勇さん…」
断り切れないまま、心ここにあらずの状態でその体温を受け入れるしかなかった。
一方、早朝の寒空の下、ゆきはぼんやりしながら街を歩いていた。
昨夜、背中に感じた誰かの腕の重みと、去った後の耐え難い寒さ。あれは義勇さんだったの?
夢…それとも…わからないけど現実のような暖かさがあった…。
だから今の寒さが余計に身に沁みる。
霞む視界の先、任務を終えたばかりのあの人が長い髪を揺らして立っていた。
「ゆき? こんな朝早くに…なんでそんな顔してるの…」
普段は虚ろな無一郎の瞳が、痛々しいほどに涙で濡れたゆきの頬を見て、激しく揺れた。
何も答えられず立ち尽くすゆきを、無一郎は理由を問う代わりに、そっと抱き寄せた。
「いいよ、何も言わなくて。…偉かったね。よしよし」
無一郎の香りが鼻をくすぐり、ただ静かに、抱きしめて髪を撫でてくれる優しい腕の中で、ゆきの張り詰めていた糸がぷつりと切れた。
ゆきは、腕を無一郎の背中に回しぎゅっとしがみついた。
「帰ろう。僕のところに」
そう告げて一度ぎゅっと抱きしめたあと、ゆきの手を引いた…
「ついておいで…」
引きずられるように無一郎に従うゆきの背後で、義勇の屋敷は遠ざかる。
ゆきは、義勇の屋敷に戻らず無一郎に引かれるまま彼の屋敷について行った。
「今日は、稽古はお休みして、屋敷においで」
「で、でも…」
「僕は柱だよ。柱の命令、君の師範ではないけど柱の言う事には、従ってね」
無一郎くんは、私を心配してくれている…。
ゆきは、泣きそうな笑顔で無一郎を見つめた。