第80章 決別
ふすまを開けた先にあったのは、無一郎が恐れていた光景だった。
畳に力なく横たわるゆきの姿…はだけた隊服…
「な、何されたの」
喉の奥から絞り出すような声で無一郎は、問いかけるがゆきからの返答はない。
その瞳は焦点が合わず、魂がどこか遠くへ置き去りにされたかのように、ぼーっと天井を見ていた。
…不死川さんに乱されても、心はここにないんだね。結局、君の頭の中にいるのは、冨岡さんのことばかりなんだ…知ってたけど…
無一郎は何となく分かっていた…ゆきの義勇への想いを…だけどあの人は…冨岡さんは…
自分なら、そんな風に傷つけたりしない。自分なら、誰よりも大切に愛してみせる…あの人は、言ってた事が矛盾している
「ねえ、ゆき僕と婚約し直そう」
ゆきは、聞いているのか聞いていないのか天井に目を向けて動かない
時が止まったような沈黙の中、無一郎はただ、ゆきの傍らに寄り添った。
どれほどの時間が経っただろうか。屋敷の廊下に、聞き慣れた静かな足音が近づいてくる。
冨岡さん戻ってきたみたいだ…流石に僕がゆきの部屋にこんな時間に居るんだ…血相変えて入ってくるよね?
無一郎の身体が、一瞬で戦闘時のように強張る。
ふすまを開けて僕はつまみ出されるかもしれない…
だが、義勇の足音は、ゆきの部屋の前で止まることはなかった。
ただ淡々と廊下を通り過ぎていく。そのまま自室のふすまが開き閉まる音が、屋敷の廊下にに冷たく響いた。
「信じられない。あの人は…本当にゆきはもういいの?いらないんだ…諦めるんだ…」
あんなに、ゆきを一途に想ってたくせに…
無一郎は、わざと大きな声を出した。
「ゆき…今夜はここに泊まってもいい?」
やっと起き上がったゆきは、無一郎を見つめた。
「美月さんが心配するから帰って…ここに居ては駄目だよ…。心配してくれてありがとう…。だけど大丈夫…」
それは無一郎が期待した返事では無かった。
一緒に居てと、頼ってくれると思ったのに…だって不死川さんには、そうしたじゃない…
僕はやはり…まだ子供なの…?
だけどそう思われたとしても…君が大切だから今夜は一緒に側にいたい。