第80章 決別
産屋敷邸の帰り道、無一郎は先ほど一人で帰ったゆきの姿が、どうしても頭から離れなかった。
義勇としのぶの親密な様子を目の当たりにし、傷ついたであろうゆきの心を想うと、胸の奥が痛かった。
無一郎の足も自然と速くなる…
「…居た!」
ようやくゆきに追いついた。だが、駆け寄ろうとした無一郎の足が止まる。
ゆきの隣には、ぴったりと寄り添い、守るように歩く不死川の姿があったからだ。
無一郎の中に、嫉妬の感情が芽生える…。
冨岡さんに突き放され、今度は不死川さんに頼るの?僕じゃないの?
いや、不死川さんが強引に連れ添っているような気がする…。色んな思考が無一郎の頭の中をぐるぐる回る。
二人はそのまま、義勇の屋敷へと入っていった。
無一郎は屋敷の外、木々の影に身を潜め、苛立ちながら門を見つめ続けた。
…何をしてるの? 不死川さん出てこないし…ゆきが弱ってるからって何かしてるんじゃ…?送るだけなのに長い。屋敷に入ろうか?でも、もし何もなければ失礼だし…
一分が一時間にも感じられる。不死川がなかなか出てこない事に、無一郎の指先は怒りで震える。
その頃、屋敷の中では無一郎の心配が現実になっていた。
ゆきは不死川に組み敷かれ、されるがままになっていた…
激しく唇を奪われても、抵抗する気力すら湧かない。
隊服の中に手が入り込み、肌に触れる熱を感じても、ただ人形のようにじっとしていた。
それは不死川が好きだからではなく義勇に拒絶された心の穴を、誰の熱でもいいから埋めてしまいたかったのかもしれない…
しかし不死川の手が止まる
「…クソが。…すまねェ。弱ってるお前にこんな事…ズルいことしちまったァ…」
不死川は乱れたゆきの髪を一度だけ優しく撫で、逃げるように屋敷を飛び出した。
門から出てきた不死川を、無一郎は睨みながら待ち構えていた。
「…何をしたの不死川さん」
目の前に立ちはだかる無一郎に気づきながらも、不死川は目を合わせる事なく、無視して走り去った。
様子がおかしすぎる…無一郎は、あわてて屋敷の中に入って行った。
常駐の隠に、ゆきの部屋の場所を聞きそちらに向かった。
「ゆき!?開けるよ…」
無一郎は、ゆっくりとふすまを開いた…