第80章 決別
産屋敷邸の門をくぐり、一人で帰路につくゆきの足取りは、ゆっくりだ。
いつもなら、義勇の大きな手が自分の手を引き、「転ばないように」と過保護なまでに歩調を合わせてくれていた。だが、今は隣に誰もいない。
「しっかりしなくちゃ…」
脳裏に焼き付いて離れないのは、会議の場で見せつけられた、義勇としのぶの親密な姿。
『今夜は胡蝶に呼ばれている。先に一人で帰れ』
先ほど言われた言葉…
あふれ出す涙が視界を遮り、道端の石に躓きそうになる。
何で…涙が出るの?義勇さんはしのぶさんを選んだんだよ…好きかと問われて、私が自らはぐらかした答えなかった。義勇さんしのぶさんを大切にするのは当然…
なのに…なにこの感情は…
孤独感に押しつぶされそうになる…だって気がつけばいつも義勇さんが隣にいたから…
その時不意に、背後から荒々しい腕が回された。
「えっ!?」
グイと強く引き寄せられ、壁のような分厚い胸板に背中が密着する。
ドクンドクンと、自分よりもずっと早い鼓動が背中越しに伝わってきた。
「ぎ、義勇…さん…?」
この腕の強さ、包み込まれるような安心感。義勇さんがやっぱり心配して来てくれたの…?
…けれど、感触が違う。
義勇の滑らかな肌ではない。私にはわかる…
「……冨岡じゃねェ」
耳元で響いたのは、義勇さんの声ではなかった。
「俺だァ」
泣いているゆきを、不死川は優しく腕に抱いた。
「冨岡に一人で帰れと言われたのかァ?」
「…はい」
「あァ?過保護だったアイツが…極端すぎる」
ゆきは、黙ってしまった…。
「俺がァ屋敷まで一緒に歩いてやるよォ」
ゆきは、思わず不死川の方に向き直り彼に抱きついていた。
そんな様子を上空高く義勇の鴉が見ていた…そう義勇は、安全確保のため鴉をゆきにつけていた…。
しかし…ゆきは、そんな事には気付いていない。
暫くゆきは、泣いた後落ち着きを取り戻し、不死川とゆっくりと歩き出した。
「大丈夫かァ?」
「は、はい…すいません…ありがとうございます」
鴉はそんな二人を、切ない目をしながらそれでも、義勇に命じられた通りにずっと上空でゆきの事を見守り続けた…。