第77章 私は誰が好き?〜時透無一郎 冨岡義勇 不死川実弥 【R強】
屋敷を去った不死川の、不器用なほどに真っ直ぐな言葉が耳の奥で繰り返される…。
あの日、不死川さんに組み伏せられ、露わになった肌を深く吸い上げられた感触。それは恐怖であったはずなのに、今の私をひどく惑わせている…。
以前、しのぶさんに言われた言葉が蘇る。
「ゆきさん、あなたは無自覚に男を惑わす人ですね。その危うさが、彼らの独占欲を煽るのですよ」
自覚など本当にない…
ただ必死に生きているだけなのに。
けれど、私にいつも愛をくれる義勇さん、かつての婚約者である無一郎くん、そして自分を好きだと告げてくれた不死川さん。
三人の視線が熱を帯びるたび、私はどう振る舞えばいいのか分からなくなっていた。
その心の揺らぎを、無一郎の継子である美月は見逃さなかった。
師である無一郎の元婚約者であるゆきを、彼女は以前から疎ましく思っていた…。無一郎様は、わたしが全てだったのに…
ある日、美月が無一郎に申し出た。
「無一郎様、今度この屋敷に、風柱様と水柱様、それにしのぶ様を呼んで料理を振る舞いたいのです」
無一郎は空を見上げ、淡々と答える。
「…いいよ。冨岡さんに、ゆきもついてくるならね」
宴の日。美月は「料理の手伝いに来て」と、ゆきを一人で先に呼び出した。
「ゆきさん、食糧庫から小麦粉を取ってきてください。 奥の棚にあるはずだから」
言われるがままに、薄暗い食糧庫の奥へと足を踏み入れる。背後で重々しい音が響いた。
―ガチャン
「え? 美月さん?」
扉を叩くが、外から鍵がかけられ、びくともしない。窓のない閉ざされた空間。一気に視界が闇に塗りつぶされる。
暗い…嫌、だ…怖い…
暗闇は、ゆきの最も忌まわしい記憶を呼び覚ます。
かつて山賊に襲われ、無残に蹂躙されたあの夜。汚された体、逃げ場のない絶望、男たちの卑俗な笑い声。
「やめて…離して…!」
ゆきは耳を塞ぎ、冷たい床にうずくまった。呼吸が浅くなり、震えが止まらない。
「美月さん!開けて!お願い!」
美月は、泣き叫ぶゆきの声を聞いていた…。
「ゆきさんが…無一郎様と私の仲を裂くから…暗闇で過去の恐怖を思い出して反省して」