第86章 無一郎と美月の秘密【R18】
部屋に戻ったゆきはすぐに、隣室へと繋がる開け放たれたふすまが目に入った。
「お風呂、気持ちよかった? 痛みは大丈夫?」
ふすまの向こうから響く無一郎の声は、いつも通り穏やかだった…。
しかし、ゆきは先ほど美月から告げられた言葉が胸につかえて離れない…。
「無一郎くん…うん、大丈夫。あのね、今夜は任務なの?」
ゆきの問いに、無一郎はわずかに震えたように感じた。
「何で?」と聞き返す無一郎の声には、隠しきれない動揺が混じっている…。
「実はお風呂で美月さんに、『今夜、無一郎様はあなたのところには行かない』って言われたの……」
無一郎は言葉を失った…。
美月は、いったい何を考えているの…?あの夜の出来事を秘密にしておいてくれるって簡単に約束してくれたけど…わざとゆきが、混乱するような事ばかり言ってる…。
「…ゆき…まだ体が痛むだろうから、今日は一人でゆっくり寝て」
「やっぱり任務なんだ。気をつけてね」
真実を告げる勇気を持てない無一郎…。
ゆきを布団へと促した。その瞳は泳ぎ、いつもなら優しく髪を撫でてくれる指先も、どこかぎこちない…。
「おやすみ」
間近に迫る無一郎の顔…口づけされると思い目をとじたゆき
だが、無一郎は、不自然なほど早く背を向け、部屋を出て行ってしまった。
「任務があるから私に構ってられないんだ…仕方ないよね。無一郎くんは、柱なんだから。」
美月の言った通り、無一郎は今夜、ゆきの側にはいてくれない…。
パシャリと閉まったふすまの音が、冷たく耳に残る。
濡れた髪が肌を冷やす中、ゆきは天井を見つめながら、理由のわからない虚無感を感じていた。
一方、廊下に出た無一郎もまた、自分の過ちと美月の計算に翻弄され、深い後悔の中に立たされていた。
「何で…あの夜…僕はゆきと間違えて…美月に口づけをしてしまったんだ…」
拳を握りしめながら暗い廊下を歩き無一郎は、美月の部屋へと向かった…。