第76章 奪い合い〜冨岡義勇 時透無一郎 不死川実弥【R】
義勇は暴れるゆきを大きな布で手際よく包み込むと、軽々と横抱きに抱え上げた。
「義勇さん、待ってください! 誰かに見られたら…隠の人たちが!」
必死に声を殺して抗議するが、義勇は表情一つ変えず、濡れた浴衣のまま廊下を歩き出す。
静まり返った屋敷に、ぴちゃりと濡れた足音だけが響いた。
「心配ない。この区画には誰も来るなと命じてある。…お前が騒がなければ、誰にも気づかれん」
その淡々とした口調に、周到な準備を感じてゆきはなんだか少し義勇が、怖く感じた…。
義勇は最初から、ゆきを逃がすつもりなどなかったのだった。
たどり着いたのは、ゆきの部屋ではなく、義勇自身の私室だった。
畳に下ろされるかと思いきや、義勇はゆきを抱いたまま布団へと降ろした。
「義勇さん、もう一緒には寝ないっていいましたよね!?」
「黙れ。傷に障る」
有無を言わせぬ力で組み伏せられ、耳元で低い声が響く。
濡れて冷たくなっているはずの義勇から、今は火照るような熱が伝わってきて、ゆきは逃げ場を失い、ただ震えることしかできなかった。
「話を聞いてほしい…」
義勇は、濡れた浴衣を側で脱ぎ身体を手拭いで拭き始めた。
鍛え上げられた義勇の身体をゆきは、こんなにまじまじと見るのが初めてで目のやり場に困った。
「な、なんの話ですか?」
「この前の任務中お前にきつく色々言ってしまいものすごく反省している…」
「…私が、弱くて継子として使い物にならないしイライラしてしまうのは、わかってます。ごめんなさい…」
ゆきは、布団から起き上がろうとするが、義勇に静かに布団に押し戻された。
「師範と継子が、このようなことをしてはいけません。…節度を弁えてください!」
ゆきは体に巻かれた大きな布を握りしめ、必死に義勇を突き放した。
そのまま部屋を飛び出そうとした瞬間、背後で義勇が微かに肩を震わせるのが見えた。
「すまない。あの任務の日、お前を傷つけようとして言ったわけではなかったんだ」
その声は、寂しげに響いた。
義勇が浮かべたひどく悲しげな表情に一瞬足が止まるが、ゆきは廊下へと走り去る。
部屋に戻っても胸の鼓動の速さはおさまらなかった。