第86章 無一郎と美月の秘密【R18】
朝の光が差し込み、小鳥のさえずりが響く。
ゆきは目を覚ますと、すぐさま隣室へと繋がるふすまに視線を向けた。
昨夜どこか冷たかった無一郎の気配がまだ残っているようで、胸がちくりと痛んだ。
…無一郎くん、戻ってるのかな?
確認するためにふすまに、手を奥がやっぱり開ける事が出来なかった。
「今日も、私は稽古があるから支度をしよう…」
沈む心を奮い立たせ、顔を洗おうと廊下へ出たその時、ゆきは信じがたい光景を目の当たりにする…。
廊下の先、美月の部屋のふすまが静かに開き、そこから無一郎が姿を現したのだ。
「え…?」
任務の報告か何かだろう。
そう自分に言い聞かせようとしたが、ゆきはその場で凍りついた。
無一郎が身に纏っているのは、きっちりとした隊服ではなく、昨夜のままの乱れた寝間着姿だったから…。
昨夜、美月が言い放った
「彼はあなたのところには行かない」
という不敵な笑みが、鮮明な記憶となって蘇る。
「…そっか。そういうことだったんだ…」
あまりの衝撃に、ゆきの口からは乾いた笑いがこぼれた。
隠し事をしてまで美月の部屋で夜を明かした無一郎…。
二人の間に流れる、私が知らない二人だけの秘密
昨夜の虚無感は、この残酷な真実を予感していたものだったのだと悟る。
私なんて、結局は誰からも必要とされていなかったんだ
無一郎も、そして稽古をつけてくれる義勇も、甘い言葉で自分を繋ぎ止める…。
けれど、その視線の先に「心」はあるのだろうか?
ただ都合よく抱ける体が欲しかっただけではないの?
信じていた温もりが足元から崩れ去っていく…。
ゆきは、裏切りの証拠を突きつけてくる無一郎の寝間着姿を視界から消すように、強く目を閉じて見ないようにした…。
頬を伝う涙さえ、今のゆきには自身の惨めさを象徴するものにしか感じられなかった。
「泣いたら駄目…顔を洗ってしっかりしなくちゃ。」
自分に、そう言い聞かせゆきは、歩き出した。