第76章 奪い合い〜冨岡義勇 時透無一郎 不死川実弥【R】
一瞬熱に魘された顔が、意識をはっきりしたようにシャンとしたように見えた…。
だが、不死川は、予想だにしない返答に言葉を失った。
「そうですか…」
弱々しく、けれどどこか他人事のような呟き。
ゆきはそのまま重い瞼を閉じ、深い眠りへと落ちていった。
不死川は、ゆきの寝顔を呆然と見つめていた。
もっと取り乱すか、あるいは悲しむと思っていた。それなのに、その反応はあまりにも淡白で、まるで最初からすべてを諦めていたかのようだった。
時透と婚約していたが、俺はてっきり冨岡のことも少し好いていたんじゃねェのかと思っていた
冨岡を遠ざけるために告げた事実。だが、それがゆきの心を折ってしまったのではないかという、これまでにない恐怖が不死川を襲う…
「クソが。俺は何をやってんだ」
‐‐‐
夜になり蝶屋敷も静まり返っていた…
義勇は、頭痛で目を覚ました。
「くっ…!」
目を開き飛び起きた。「あれ?俺は…」
確か…不死川と喧嘩になり…胡蝶に止められ…何かを嗅がされて…意識が…
ふと、右手に柔らかい感触があるのに気が付いた。
「目覚めましたか?冨岡さん」
義勇の右隣で、笑みを浮かべるしのぶ…驚いたことに…一糸まとわぬ姿だった…。
義勇の思考は、あまりの異常事態に真っ白になった。
静まり返った蝶屋敷の一室。月明かりが差し込む中で、しのぶの白い肌が非現実的なほどに浮かび上がっている。
先ほどまでの頭痛など、一瞬でどこかへ吹き飛んでしまった。
「な、何を…っ、胡蝶、服を着ろ!」
義勇は狼狽え、視線を泳がせながら、這うようにして布団から逃れようとする。だが、背中に触れたのは、驚くほど熱く、柔らかな体温だった。
「冨岡さん私を見てください!あんな子に振り回されるのは終わりにしましょう。」
「離せ!こんな事…何を考えている」
「もう、手遅れですよ…少し前不死川さんが様子を見に来たのです。私がちょうど冨岡さんに口付けをしている最中でした…。きっとあの子にも伝えているでしょう。私達の様子を…」
「最低だな!胡蝶…」
義勇は、無理矢理しのぶを引き離し部屋から出て行ってしまった。
しのぶは、一人まだ義勇の体温が残る寝台に身を寄せた…。