第75章 水柱と継子 霞柱と継子〜冨岡義勇 時透無一郎 不死川実弥
部屋の中は行燈の光で異様に明るく、血の匂いが立ち込めていた。
そこには、隊服を乱し青白い顔で横たわるゆきと、その傍らで返り血を浴びたまま、彼女の頬に触れている不死川の姿があった。
義勇の頭は真っ白になった。
なぜ、不死川がここにいる。なぜ、ゆきはあんな姿に…
「テメェ、どの面下げて戻ってきやがったァ!!」
不死川はゆっくりと立ち上がると、義勇の胸ぐらを掴み、背後の壁に叩きつけた。
「っ…!」
「答えろォ! 何故ゆきがこんな状態でいる! 時透は手当されてたじゃねェか! なのに何で…ゆきは、凄い出血で放置したァ!!お前こいつが大事なんだろォ?」
不死川の怒りは沸点を超えていた。
麻酔もなしに針を通した時の、ゆきのあの痛みを耐える涙。それがすべて義勇への怒りに変わる。
俺は、ゆきを愛するがゆえに戦いの場から遠ざけたかった。時透にゆきがついて行った時の憤り、そして時透に怪我をさせた彼女の「力不足」への苛立ち…
怪我をしているのは分かっていた。大したことないと思っていた…
「事後処理を、優先した…。俺がゆきを、甘やかしすぎてなのか…言うことを聞かなかった罰だと思い…キツイ言葉をかけ時透と時透の継子と共に戻れと命令した」
義勇が絞り出した言葉は、最悪の火に油を注ぐことになった。
「報いだと? 自分の言うことを聞かなかった罰として、この傷を放っておいたってのかァ? ふざけんなよ、冨岡。テメェ笑わせんじゃねェぞ!」
不死川は義勇を離すと、荒々しく横たわるゆきを指差した。
「時透は継子に運ばせ、こいつには『自分で何とかしろ』と言わんばかりに放り出した。好いてる女を!」
不死川の言葉が、義勇の胸に突き刺さる…。
「言い訳になるが、本当にこれ程までに酷い怪我だとは思わなかったんだ…。」
その時。
「…ぁ…っ…」
布団の上で、ゆきが小さく身悶えした。
痛みと高熱にうなされ、意識が戻りかけている。その瞳からは、まだ止まらない涙がこぼれ落ちた。
「ご…めん…なさい…私…」
うわ言で繰り返される謝罪の言葉。
不死川はゆきの背中を支えるように抱き寄せた。
「謝らねェでいいよ。よく頑張ったなァ偉いぞ」