第75章 水柱と継子 霞柱と継子〜冨岡義勇 時透無一郎 不死川実弥
不死川は、運び込んだ部屋の行燈をすべて寄せ、手元の明かりを確保した。
藤の家の者が震える手で持ってきたのは、煮沸消毒された針と絹糸、そして清潔な布。
「…チッ、麻酔はねェのか!」
「も、申し訳ございません。ただいま手配しておりますが、すぐには…」
「糞が。…いい、俺がやる」
不死川は迷いを捨てた。
これだけの出血だ。一刻も早く傷口を閉じなければ、命に関わる。
不死川は懐から清潔な手拭いを取り出すと、それを幾重にも折り畳んだ。
「おい、ゆき。聞こえるか…。今から傷を縫う。痛ェだろうが、舌を噛み切らねェようにこれを噛んでろ」
うっすらと目を開けたゆきの口に、不死川は躊躇なく手拭いを詰め込んだ。
朦朧とした意識の中でも、ゆきの瞳には恐怖と痛みによる涙が溜まっている…
「いいか、動くんじゃねェぞ。すぐに終わらせてやるからな」
不死川の大きな掌が、ゆきの震える手首をしっかりと固く固定する。
鋭い針が、深く裂けた手の甲の肉を貫いた。
「…っ!!?」
布越しに、ゆきの押し殺した悲鳴が漏れる。
指先が痙攣し、身体を逸らすが、不死川は一切その手を緩めなかった。
「すまねェ。耐えろ」
一針、一針。
不死川の額からも大粒の汗が滴り落ちる。
ようやく最後のひと針を終え、不死川は糸を切り、血を拭い取ってから手早く包帯を巻き上げた。
ゆきは痛みで、ぐったりと力なく横たわっている。
不死川は彼女の口から手拭いを抜き取ると、血の気の失せた頬を、優しく撫でた。
「よく耐えた。もう大丈夫だ」
汗びっしょりのゆきを見て隊服のボタンに手を伸ばし外してやった。
それにしても、任務で冨岡と一緒だったはずだろう?あいつァ何処にいる?さっき時透が継子に運ばれてきたが合同任務だったのか?
時透は、応急処置されていて大丈夫そうだったが、なぜこいつは、ほったらかしだったんだァ?
‐‐‐
義勇が事後処理を終え部屋に戻ると、そこにいるはずのゆきの姿がなかった。
「ゆき?」
慌てて廊下へ飛び出すと、奥の部屋から漏れる強い光に何故か導かれた…。
「何だ?」
状況が掴めぬまま、義勇は吸い寄せられるようにその部屋のふすまへと手をかけた。