第75章 水柱と継子 霞柱と継子〜冨岡義勇 時透無一郎 不死川実弥
ゆきと無一郎は既に鬼と遭遇していた
「いけるよ、ゆき。君の筋は悪くない」
無一郎の言葉に背中を押され、ゆきは必死に刃を振るっていた。
師である義勇の前では「守られるべき存在」として委縮してしまう、今は無一郎が対等な一人の剣士として自分を信じてくれている。その高揚感に胸を震わせた、その時だった。
ゆきが仕留めきれなかった鬼の触手が、死角から喉元へ迫る。
「危ない!」
無一郎がゆきを突き飛ばし、代わりにその身を棘が貫いた。
「無一郎くん!」
血が舞い、無一郎が膝をつく、その時静寂を切り裂く声が響いた
「水の呼吸 拾ノ型 凪」
義勇の放った一撃が、ゆきを襲う攻撃をすべて無に帰す。直後、美月が無一郎の窮地を救うべく、鋭い突きで鬼を抑え込む。
「無一郎様、お助けします!」
完璧な連携。自分よりも意思疎通が取れていた、その事実に、ゆきの手から力が抜けた。
「時透、あとの始末は俺がやる」
義勇の声は、怒りに震えているように聞こえた。
まただ。また、俺はこいつを死なせかけるところだった
義勇は、激しい後悔と恐怖で荒れ狂っていた。
ゆきは俺の継子だ。俺が守らなければならない存在だ。なのに、なぜ時透について行った。なぜ自分を危険に晒す。
「ゆき、後ろにいろ。お前にはまだ早いと言ったはずだ」
大切だからこそ出た言葉は、ゆきにとっては「お前は戦力外だ」という宣告として聞こえた。
ゆきは地面を見つめたまま、「ごめんなさい」と呟いた。
義勇さんの言う通りだ。私は結局、無一郎くんに怪我をさせ、義勇さんの足を引っ張るだけの「お荷物」でしかない。
その時、無一郎が、そっとゆきの震える手を握りしめた。
「何に謝ってるの? 僕は君を庇えて、光栄だと思っているのに」
無一郎はゆきだけに聞こえる甘く静かな声で囁く。
「冨岡さんは君を信じていない。君を閉じ込めて、翼を折ろうとしているだけだ。でも、僕は違う。君の強さも、君が今どれだけ頑張ったかも、全部見ていたよ」
「無一郎くん」
「ねえ、僕なら、君を一番輝ける場所で守ってあげる」
無一郎の指が、ゆきの指の間に深く割り込んだ。