第75章 水柱と継子 霞柱と継子〜冨岡義勇 時透無一郎 不死川実弥
義勇の静止を振り切るようにして、無一郎に手を引かれ夜の帳へと踏み出したゆき。
背後に残された義勇の、心配そうな表情が脳裏に焼き付いて離れない。
村外れへと続く静かな山道を歩きながら、無一郎はゆきの手を握ったまま、前を向いた状態で口を開く。
「ねえ、さっきは困ってたでしょ?」
無一郎は続ける
「美月にあんな言い方されて、本当は言い返したかった? それとも、冨岡さんの隣にいたかった?」
ゆきは言葉に詰まった。
義勇の隣にいたいのではなく「一人の剣士として、義勇に認められたい」という願いが、胸の奥にあった。それに美月さんに、見下されている事も気付いていた。
「わかるよ。君は美月みたいにただ好戦的なわけじゃない。でも、冨岡さんに守られるだけの存在でいたくないんだよね。自分だって戦えるって、あの人に証明したい。…そうでしょ?」
図星を突かれ、ゆきは小さく頷くことしかできなかった。
無一郎は、ゆきのそんな健気で、けれど危うい向上心を見透かしていた。
「冨岡さんは、君に怪我させたくない死なせたくない気持ちばかりで、君の強さを信じきれていない。…それは、ある意味で君を侮辱しているのと同じだよ。僕はそんなことしない」
無一郎が足を止め、ゆっくりとゆきを振り返る。
月明かりに照らされた無一郎の瞳は、かつて婚約者としてゆきを見つめていた時と同じ優しい瞳だった。
「僕なら、君の戦い方を邪魔しない。君が一番輝ける場所で、僕が死なせないように支える。…だから、今夜は冨岡さんのことは忘れて。僕だけを見て、僕の隣で君の力を見せてよ」
「無一郎くん…」
何でそんなに私の気持ちがわかるの…?義勇さんは、優しい…だけど…私はどんどん肩身が狭くなっていく…迷惑ばかりかけてしまう…。
一方、藤の花の家に取り残された義勇は、その場から動けなかった。
隣には、不満げに口を尖らせる美月がいた
「水柱様、いつまでそうして突っ立っているのですか? 早く私たちも出発しないと」
時透は、わざとあんな提案をしたのか…?
俺と時透で、行けば済んだ話を…
「水柱様!行きますよ」
「あ、ああ…」
少し遅れて義勇達も、藤の家を出発した…互いの継子を入れ替えた形で…