第74章 継子美月の罠〜時透無一郎 冨岡義勇 【R強】
藤の家の夜は続いていたー
「無一郎様…。今夜は、お側で共に眠らせていただけませんか?」
継子である美月は、丁寧な物腰でそっと問いかけた。
二人きりの部屋。任務のために与えられた部屋は柱と継子は同室だった。
無一郎は書物から視線を動かすことなく、冷淡に突き放す。
「何か勘違いしてない? 君はただの継子だよ。…静かにしてくれるかな」
美月は、少し面白くなかった…自分は剣士として自信があった。鬼に挑むのも怖くない、無一郎様の稽古のおかげで以前より腕も上がった。
先程共に戦った水柱様にも褒められた。
なのに、なのに、なぜ二人ともあんな何も出来ない、継子として使いものにならないゆきさんに、夢中なの?
「…承知いたしました。失礼な物言いを、お許しください」
美月は深く頭を下げたが、握りしめた拳は微かに震えていた。 頭に浮かぶのは、自分よりもずっと華奢で、刀を握る手もおぼつかないゆきのこと。
美月は部屋の隅に用意された自分の布団に横たわるが、意識は冴え渡る一方だった。
自分はすでに「呼吸」を極めつつあり、水柱様からも一目置かれる実力がある。
鬼殺隊としての任務も完璧にこなし、無一郎の指示にも即座に応えてきた。
なぜ二人ともあんな人を…
「美月」
不意に名前を呼ばれ、美月の心臓がびくりとする。謝罪が来るのか、それともようやく自分を見てくれるのか。期待を込めて顔を上げると、無一郎は書物を閉じ、ようやくこちらを見た。
「君は強いね。それは認めてる。継子として申し分無いただ、其れだけだ」
無一郎はそこまで言うと、ふいっと視線を窓の外に広がる藤の花へと移した。
「でも以前は、香油を贈ってくださったり優しくしてくださったではないですか?」
無一郎はそれ以上何も語らず、行灯の火を指先で消した。部屋は暗くなり、美月の視界からは無一郎の表情が見えなくなった。
暗闇の中で、美月は誓う…。
明日の任務では、誰の目にも明らかな結果を出してみせると。
ゆきには決して届かない、圧倒的な力を見せつければ、きっと無一郎様の意識も自分に向くはずだ、と。
あの頃、無一郎はゆきへの不信感から、逃げるように美月の献身に甘えていた。
だが誤解が解け、彼の心は再び元の場所ゆきへ。
美月は暗闇で、そっと涙を流した。