第86章 無一郎と美月の秘密【R18】
ゆきは、乱れた呼吸を整える間もなく屋敷を飛び出した。
色々考えながら進んでいるうちに、義勇の屋敷が見えてきた。
道場に足を踏み入れると、義勇がすぐさまこちらに気づき、歩み寄ってきた。
いつもの冷静さとは異なり、微かな揺らぎがあった。
「昨日、寛三郎に届けさせた薬は飲んだのか?」
義勇の問いには、隠しきれない後ろめたさが滲んでいた…。
ゆきが無一郎の屋敷で過ごしていることへの、無意識の嫉妬…。
それが先日の打ち込み稽古で加減がきかずに、ゆきの体に無数の痣を作ってしまった…。
「飲みました。鎮痛剤がよく効いています…。痣は残っていますが、痛みはありません。稽古、できます」
ゆきが少し強張った笑みを浮かべて答えると、義勇は小さく安心した表情をみせた。
「義勇さんの方こそ…腕、大丈夫ですか? すいません、私が避けられなかったせいで…怪我をさせてしまい…」
申し訳なさそうに俯くゆきに対し、義勇は視線を逸らし、短く答えた…。
「お前は悪くない。…気にするな」
ぶっきらぼうな口調で会話を打ち切ると、義勇は自らの竹刀を手に取った。
気まずい沈黙を破るように、道場に足音が響く
現れたのは、義勇を迎えに来たしのぶだった。
「お楽しみのところ失礼します。冨岡さん、その傷…きちんと手当てをしていませんね?」
隠から事情を聞きつけたしのぶは、義勇を蝶屋敷で手当てするために迎えに来ていた。
ゆきに視線を向けるしのぶ…。
「自分で避けれませんでしたか?冨岡さんにこんな怪我をさせて…」
「す、すみません…力不足です。」
「胡蝶、ゆきは悪くない」
義勇がすかさず割って入ったがしのぶは、続けた。
「消毒も不十分、これでは化膿してしまいます。稽古よりもまずは治療が先決ですよ、あなたは帰りなさい…これでは今日は、稽古などつけれません。」
しのぶは、義勇の腕を引き道場の外へ引っ張って行った。
静まり返った道場に、ゆきだけが取り残された…。
しのぶさんに、手当てしてもらえるなら安心…そう安堵した。
だけど…
まだ…無一郎くんと美月さんの居る屋敷に帰りたくないな…
また二人の見てはいけないところ…見たくないよ…