第73章 君を取り返すために〜冨岡義勇 時透無一郎
ゆきは、無一郎がまだ話している最中に無理矢理部屋を出た。
帰り道足が重くてなかなか屋敷にたどり着かず、義勇の鴉の寛三郎が、頭上に飛んでいるのがわかった。
「私の事見守ってくれてるんだ…ありがとう」
急に頭に義勇の顔が浮かび、日も暮れかけていたので急いで屋敷に向かった。
門の前で、ソワソワしている義勇が目に入った。行ったり来たりしていて落ち着かない様子だった。そんな義勇さんを見るのは初めて…いつも冷静で物静かな人だから…
私が視界に入った途端こちらに走ってきた
「遅かったじゃないか?胡蝶の診察が長引いたのか?」
「あっ…実はしのぶさんが居なくて…診察受けれてないんです」
「胡蝶がいなかったのか?おかしいな?明日は俺も検診があるからまた一緒に行こう」
「はい」
義勇は、ゆきの背中に優しく手を添えると屋敷の中に優しく誘導した。
「隠が夕飯を作ってくれているすぐに夕食にしよう」
優しい…本当に不器用ながらすごく優しくしてくれる。何度も素っ気なく冷たくされた事はあるけど、あの山賊の事件以降優しい…
お風呂にも入り就寝の時間になった。今日から私は一人で寝る…。
お布団に入り目を閉じた…今日の出来事を思い出している自分がいた…無一郎くんの感触が、体に残っている…美月さんに言われた言葉も思い出す…
だけど…無一郎くんが、庇ってくれた。
そう言えば婚約解消をなかったことにするってお館様に言うって言ってたな…
だけど思い出す…無一郎くんに拒絶された日の悲しみを…お重箱を泥土に投げられたあの時の悲しみを…
不安と困惑で胸がいっぱいになり、寝返りを打つ。
義勇さんの不器用な優しさは、凍えた心にじわりと染み渡る。
けれど、目を閉じれば浮かぶのは無一郎くんの真っ直ぐな瞳と、抱きしめられた時の体温。
「どうしてこんなに、心が揺れるの……」
無一郎くんが婚約解消を白紙に戻すと言った時、私の心は確かにドキッと音を立てた。
それは安堵なのか、それとも。
静まり返った夜の帳の中で、答えの出ない問いが、私を深い眠りから遠ざけていた。