第73章 君を取り返すために〜冨岡義勇 時透無一郎
翌日ゆきは、検診を受ける為に蝶屋敷へと出向いた。
義勇は、柱の仕事が入っていたため屋敷で書物に追われていたので蝶屋敷へは、ゆき一人で行った。
蝶屋敷の廊下をゆきは、ゆっくりと歩いて一番奥の診察室へと足を進めた。
扉をあけ中に入るとしのぶの姿が見えなかった。
しのぶさん?あれ?居ないのかな?
奥にベッドがある、その手前に仕切りがあるので奥まで様子が見えない。
すると突然ベッドがある方から手が伸びてきてゆきは、ベッドの上に引きずり込まれた。声を上げようとした瞬間口元も手で覆われた。
「ゆき…会いたかった。まさかここで会えるなんて思わなかったよ」
私をベッドの上で組み敷いているのは、無一郎くんだった。
「この前の夜、途中で美月を助けに行っちゃってごめんね…まだ謝っていた途中だったのに」
無一郎は、ゆきの口元を覆っていた手をゆっくりと外した。
「あの…時透様…離してください」
「その呼び方…嫌だな…あと話し方も」
無一郎が、体をゆきに委ねた…苦しくないように体重をかけないようにゆっくりと…
「離してください!誰か来たら大変です」
無一郎は、ゆきの首筋に顔を埋めて匂いを確かめるように何度も息を吸った。
「本物のゆきの香りだ…甘くていい匂い…安心する…最近ちゃんと寝てないんだ。君が恋しすぎて」
自分を想うあまりに心身を削っている事実に、拒絶する力が弱まってしまう。
「ねえ、怖くないのなら少しだけ…こうさせて」
確かにもう山賊への恐怖はとっくに薄れていた
「いい子。僕のことだけ考えてよ。」
潤んだ瞳で見つめられ、私は言葉を失う。その時、仕切りの向こう側で微かな衣擦れの音がした。
…しのぶさん?
無一郎くんは構わず私の首筋に深く顔を埋め、離れてくれなかった。
一方、仕切りの隙間からはしのぶが無表情でその光景を見つめていた。
富岡さん、あなたが選んだ人は、婚約解消した時透君を誘惑してますよ…はしたない…
「やっ…んっ…離して」
「怖くないならもう少しこのままで…」
無一郎は、きつくゆきを抱き締める
「んっ…」
静まり返った診察室に、隊服が擦れる音と、秘めやかな吐息だけが重なり合っていた。