第73章 君を取り返すために〜冨岡義勇 時透無一郎
夕食後の静寂が、いつも以上に重く屋敷を包んでいた。
約束通り、二人で並んで布団に入る最後の夜。
行灯の淡い光のなか、義勇さんは背を向けず、私の方を向いて横たわっていた。
少し無言の時間が続いた後…。
「最後だから、少し近くに来い」
その低く、どこか震える声に抗えず、私は数寸だけ体を義勇さんに寄せた。
「もっとだ…もっと俺の側に来てくれ」
また、少し義勇さんに近づいた…
かつて、心を通わせていた頃に嗅いでいた、落ち着く香りが鼻をくすぐる。
義勇さんは、躊躇いながらも私の頬にそっと手を添えてきた。
指先は驚くほど熱く、義勇さんがどれほどの想いを抑え込んでいるのかが伝わってくる。
「何もしないから…大丈夫だ。近くに居たい」
頬に触れていた手は、私の腰に移動してきた、その手は熱っぽく何もしないからの言葉が本当なのか?と疑いたくなるほどだった。
近すぎる距離に心臓が速くなる。
義勇が夜中に何度も部屋を出ていた理由。
熱くなった体を冷やしに行っていたというその告白が、今の吐息の熱さや手の熱さで真実だと分かってしまう。
「…今夜は、外へは行かない。お前の温もりを、最後まで刻んでおきたい」
腰に触れている手がゆっくり背中を撫でてくる。その手は熱っぽくゆっくりと動く。
「ぎ、義勇さん?」
「お前に触れていたい…お前の柔らかい体に触れていたい…」
その手の震えが、義勇がどれほどゆきを「抱きたい」という衝動を、必死に理性で繋ぎ止めているかを物語っていた。
無一郎くんへの愛も嘘ではないけれど、こうして義勇さんの体温に触れると、心の奥底に沈めていたはずの「好き」という感情が、静かに波紋を広げていくのを感じずにはいられなかった…。
夜が明ければ、別々の部屋で、独りで眠る日々が始まる。
「おやすみ、ゆき」
耳元で囁かれた名前。その響きがあまりに切実で、私は閉じた瞼の裏で、熱いものがこみ上げるのを必死に堪えた…。
背中を撫でる手はいつまでも熱を帯びていた…
真夜中すやすやと眠るゆきを、義勇は寝ずに見つめていた。
無防備で可愛い寝顔…唇にそっと触れた…柔らかい…義勇は、ゆっくりと顔を近づける…。
そして、そっと唇を合わせた…。
触れるだけの口付け。
義勇の胸は一杯になった…