第73章 君を取り返すために〜冨岡義勇 時透無一郎
「いやぁぁぁ! 助けて!!」
その声の主は、美月だった。
すぐ近くの路地裏で、すごい殺気と共に彼女が鬼に襲われていたのだった。
「…っ!」
無一郎くんの体が反射的に動いた。
私を離すと、風を切るような速さで美月さんの元へと飛び込んでいってしまった。
一瞬の静寂の後、激しい衝撃音が響く。
無一郎くんは、美月の喉元に迫っていた鬼の爪を、紙一重のところで弾き飛ばした。
流れるような剣筋で鬼を退け、無一郎は恐怖に震える美月を、その細い腕の中にしっかりと抱き寄せた。
「大丈夫……? 怪我はない?」
必死な形相で美月さんを抱きしめ、安堵の息を漏らす無一郎くん。
その姿は、先ほどまで私に注がれていた情熱的な愛情と同じくらい、切実で献身的なものに見えた。
「……あ……」
私の喉から、声にならない吐息が漏れた。
彼は優しい。誰かを守るために剣を振るう、尊い柱。
けれど、その腕に守られるのが私ではなく別の女性である光景は、山賊に傷つけられた時よりも深く、私の胸をえぐる…。
やっぱり、私は無一郎くんの隣に相応しくない…
さっきまでの甘い囁きも、綺麗だという言葉も、遠い幻のように霞んでいく…。
無一郎くんが私を探して振り返った時、そこにあるのは同情や罪悪感だけかもしれない。
うん…きっとそうだ…だって無一郎くんは優しい…
そう思うと、もう一秒もここに留まることはできなかった。
「さよなら」
無一郎が異変に気づき、ハッとして私のいた場所へ視線を戻した時には、そこにはもう、夜風に揺れる木々の影しか残されていませんでした。
私は、逃げた…綺麗な二人を見ていると自分の汚さが際立って苦しくなるから…
走って…走って…その先で
暖かい胸の中にぶつかり…包まれた…
「心配させるな!探したぞ!俺から離れるな!」
見上げると汗びっしょりの義勇さんが、私に怒っていた…
「あの…探してくれたんですか?」
息を切らして私を抱きしめてくれる…いつも…いつも
こんな私に何で…優しくしてくれるの…
「今日の任務は終わりだ。帰るぞ」
手をぎゅっと繋がれて暗い夜道を歩いて二人は屋敷へ戻った。
その様子を無一郎は、遠くから切ない表情で眺めていた。
長い髪が夜風に揺れていた…
「必ず君を取り返す…」
