第73章 君を取り返すために〜冨岡義勇 時透無一郎
雲が多い夜だった…月をすぐに雲が隠して闇が深くなる…
静まりかえった街を義勇は、必死に走り回りゆきを探した。
「またもしもの事があったら…俺は生きていけない…」
ゆきは、夜の街を一人歩いていた。
「一人で任務を遂行できる…いつまでも義勇さんの重荷になれない…あの美月って子に…弱いって言われた…私は義勇さんの継子なのに…」
涙を浮かべながら言葉に詰まった…
「よりによって鬼ではなく、人間に…負けるなんて…」
忘れていた記憶を思い出す…あの山賊達の気持ち悪い感触を…
匂いを…
痛みを…
ゆきは、胸を撫で下ろす…落ち着いて…私…落ち着くの…大丈夫…私の体は…
「私の体は…私の体は?」
その時背後からふわりと優しく抱きしめられた…。
頬に触れる長くて…柔らかい髪の感触…。義勇さんより華奢な体は…
胴に回される白くて綺麗な腕…
「君の体はとても綺麗だよ…誰よりも一番綺麗だよ」
「…っ、時透様!?」
他人行儀な呼び方で名を呼び、その腕から逃れようと身を捩る。
無一郎は離さない、逃がさないという強い意志を込めてさらに深く腕を回した。
「どうして、そんな風に呼ぶの。前みたいに呼んでよ」
耳元で囁かれる声は甘く、それでいて泣き出しそうなほど切ない。
無一郎は、彼女が不死川や義勇に抱かれているのだと誤解し、嫉妬に狂って「汚い」と言い放ってしまった自分を、死ぬほど悔いていた。
「離してください。時透様の言う通り、私は汚いんです。あの時、山賊たちに…」
ゆきが震える声で打ち明けた真実に、無一郎の心臓が止まりそうになる。
不死川たちへの嫉妬で、ゆきが本当に負った深い傷に、お館様に真実を聞くまで気づかなかった。
「…ごめん。本当に、ごめん…」
無一郎はゆきの背中に顔を埋め、謝罪の言葉を繰り返した。
「あんな酷いことを言って本当にごめん…僕は最低だ。でも、違うんだ。そんなことで君が汚れるわけない」
胴に回した腕に力を込め、ゆきの存在を確かめるように抱きしめる。
「君の体はとても綺麗だよ。僕にとって君は、誰よりも一番綺麗だ。あいつらの記憶なんて、全部僕が忘れさせてみせる…」
「無一郎くん…」