第73章 君を取り返すために〜冨岡義勇 時透無一郎
美月の言葉は、まるで親切心を装った刃のようにゆきの心を突き刺す。
「…もう、やめて」
震える声で呟いたその時…。
「何してるの、美月」
屋根の上から音もなく舞い降りたのは、無一郎だった。
無一郎は着地すると同時に、義勇の腕に触れていた美月の手を、無造作に振り払った。
無一郎の瞳は、いつも以上に感情が読み取れず、深い霧に包まれているようだった。
美月を一度も見ることなく、真っ直ぐに顔色の悪いゆきを見つめる。
「君、僕が教えたこと、もう忘れたの? 誰に何を話していいか、自分で判断もできないなら継子なんて辞めればいい」
「む、無一郎様…! 私はただ、ゆきさんが心配で…」
「うるさいなぁ」
無一郎の冷たい一喝に、美月は息を呑んで後ずさった。
無一郎は一歩、ゆきに歩み寄る。
「…ゆき。誤解しないで。僕がお館様から話を聞いたのは、君を傷つけるためじゃない。知りたかったんだ…僕の…あの言葉で君が取り乱した理由を…」
そう…汚い…と言う言葉…
無一郎の言葉に、隣にいた義勇の眉が微かに動いた。
「時透。それを継子に話す必要はなかったはずだ」
無一郎はゆっくりと義勇に視線を移した。
「冨岡さんに言われる筋合いはないよ。あなたが彼女を守りきれなかったから、あんなことになったんだ。」
「っ…」
義勇は自身の拳を握りしめた。
ゆきは、美月から漂う自分と同じ香油の香りと、無一郎にあの事を知られた上に美月まで知っている事に動揺した。
無一郎が、自分の傷跡を他人に共有していたという事実にゆきは新しく新調した日輪刀の柄をぎゅっと握りしめた。
「義勇さん任務中なので、私は行きますね…」
突然ゆきは義勇を置き去りにするように、夜の闇へと駆け出した。
「ま、待て!一人で行くな!ゆき!危ない!時透とにかくもうあいつに、構わないでくれ!」
一人この場にいる事に耐えられなくなったゆきは、任務の為に暗闇の街の中に向かって行ってしまった。
そんなゆきの後を義勇は、慌てて追って走った。
俺は不安なんだ…少しでも俺の目の届かない場所に行かれると不安で押し潰されそうになる