第72章 真実〜冨岡義勇
「時透様失礼します…」
消えそうな声でゆきは、言った…
「えっ?何その呼び方…やめてよね…そんな呼び方しないでよ…いつもみたいに名前で呼んでよ…」
無一郎は、自分の顔を見ないゆきの腕を強く掴んだ…涙をいっぱい溜めた顔が見えて無一郎の胸は締め付けられた。
「は、離してください…師範の所に行かないと。」
「話しを聞いて!謝りたいんだ!」
無一郎がゆきを必死に止めている時に声がした
「おい、ゆき!こんな所にいやがったか…」
現れたのは不死川だった。
彼は無一郎に腕を掴まれ、涙を溜めているゆきの姿を見ると、見たこともないような優しい手つきでその肩を抱き寄せた。
「探したぜ。ほら、もう泣くんじゃねェ」
不死川は大きな手でゆきの涙を拭うと、無一郎の手を解かせて静かに促した。
「冨岡の野郎がァ血相変えてお前を探してたぞ。あいつの所へ行ってやれ」
促されたゆきが俯いたまま歩き出し、その姿が見えなくなると、不死川の表情から柔らかさが消えた。
「不死川さん…僕はゆきと話がしたかったんだ」
彼は一人残された無一郎に向き直り、静かに、けれど釘を刺すようなトーンで告げる。
「時透。あいつは、やっと気持ちが落ち着いてきたところなんだ。今は、そっとしてやってくれ。頼む。」
その言葉に無一郎は返す言葉が無かった。
産屋敷邸の門の所で義勇の姿を見つけたゆきは、溢れそうな想いを必死に飲み込んだ。
赤くなった目元を拭い、無理に作った笑顔で駆け寄る。
「義勇さん、お待たせしました」
その震える声と、無理に背筋を伸ばすゆきの痛々しさに、義勇は何も言わず大きな手でその頭を撫でた。
ふと義勇が顔を上げると、遠くで立ち尽くす無一郎の、真っ直ぐな視線とぶつかる。
無一郎の視線は、後悔と絶望が混ざり合っていた。
義勇はあえて視線を逸らさず、逃がさないようにゆきを自分の方へ引き寄せた。
「ぎ、義勇さん?」
「ゆき中庭の桜が綺麗だ…お前に送った羽織りがなぜ桜色かわかるか?」
「いいえ…」
「お前が、桜のように美しくて綺麗だからだ…」
急な褒め言葉に驚いて、義勇に顔を向けると桜の木をじっと見つめていた…。