第72章 真実〜冨岡義勇
義勇の言葉は、ゆきの顔を赤く火照らせた。
普段は言葉少ない義勇が、これほどまでに真っ直ぐな心内を口にするとは思わなかったからだ。
「さあ、帰ろう」
義勇に肩を抱き寄せられ、促されるままに歩き出す。
遠くで立ち尽くす無一郎の気配が背中に刺さるようだったが、今は振り返る勇気がなかった。
義勇の屋敷に戻ると、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
夕食を済ませ、風呂を浴び、寝支度を整える。
この屋敷での生活において、ゆきが最も緊張し、そして安らぎを感じる時間がやってくる。
それは、一つの布団に二人で入る時間だった。
「寒くないか」
隣に横たわる義勇が、静かな声で問いかける。
「はい、大丈夫です」
ゆきは小さく頷いた。
屋敷に連れてこられて以来、義勇は「一人にするのは危うい」と言って、ゆきを自分の隣で寝かせている。
しかし、その手はいつも優しく頭を撫でるか、背中にそっと添えられるだけだった。
昔のように身体を求めてくるような事はなかった。
暗闇の中で、義勇の瞳がじっと天井を見つめている。
すぐ隣からは、ゆきの微かな呼吸音と、いつもの甘い香りが俺を誘う…。
隣で眠るゆきの体温と、衣擦れの音が理性を狂わせる。
かつてのようにその柔らかな肌に触れ、抱きたいと熱く胸の奥で思ってしまう。
耐えかねた義勇の手が、吸い寄せられるようにゆきの腰へと伸びる。
薄い浴衣越しに伝わる体の曲線。
その熱に触れた瞬間、指先が火に触れたかのよう熱くなる…。
無意識に指が帯の結び目に掛かり、そのまま引き解いてしまいたいという欲望が、義勇の脳裏を支配しかける。
「…っ」
義勇は奥歯を噛み締め、強引に手を引き剥がした。
これ以上ここにいれば、守ると決めたはずのゆきを壊してしまう。
義勇は荒い吐息を殺しながら、逃げるように部屋を飛び出した。
独り残されたゆきは、闇の中でそっと目を開けた。
腰に残る、指先の熱い感触。
義勇が必死に欲情を、抑え込んでいる事にゆきは、気付いていた。
今まで、義勇さんは強引に欲しい時は私を抱いてきた…でも無一郎くんとの婚約解消後からは一線は越えてこない…。