第72章 真実〜冨岡義勇
日も暮れ夜がやって来た頃、ふすまの向こうから声がした
「ゆき。少し、失礼する」
部屋に戻ったゆきを追ってきた義勇の手には、温かい布と、なぜか一本のくしがあった。
「外に居て冷えただろう暖かい布を持ってきた?」
「そんな…大丈夫ですよ」
義勇は跪くと、熱い湯を絞った布で、ゆきの頬を驚くほど優しく、丁寧に拭い始めた。
大きな、剣を握る硬い掌が、緊張なのか震えていた。
「ぎ、義勇さん、自分でできますから…」
「俺にさせてくれ。お前に触れていないと、どこかへ消えてしまいそうで…怖いんだ」
その告白に、ゆきは胸を突かれた。
こんな私に、優しくしてくれるなんて…
義勇はそのまま、彼女の背後に回ると、絡まった髪をゆっくりと、すきはじめた。
「えっ?えっ?義勇さん?」
「お前の髪は、桜のようで綺麗だ。ずっと、こうしてやりたいと思っていた…」
「え…?」
「そしてこれを髪に付けてやりたかった」
義勇が、頭に何かを付けてきた。驚きながら手を自分の頭に伸ばした…
この感触…髪飾り…もしかして…
「義勇さん…この髪飾り…」
「お前を抱えて山を降りたあと、蝶屋敷で胸ポケットから落ちたんだ…それをずっと俺が持っていた。」
ゆきは、涙が溢れた…山小屋で山賊に襲われた時に無くしたものだとばかり思っていたからだ…。
「何度手放してもこの髪飾りは、俺達の所に帰ってくるな?しぶといやつだ。俺がお前に贈ったからなのか知らないがお前の元にずっとこいつは、居たいらしい。」
義勇は、後ろからゆきを包み込むように抱きしめた。
分厚い胸板の鼓動が、背中越しに激しく伝わってくる。
「俺は口下手で、お前を退屈させるかもしれない。だが、一生をかけて、お前を一番に慈しむ。だから…いつか…俺と…」
ゆきは、義勇の言葉を遮った
「義勇さん…私はまだ…」
首筋に落とされた、切ないほどに優しい口づけ。
「嫌か? 嫌なら、逃げてくれ。だが、本当は離したくない」
「……」
ゆきは、何も答えてくれなかった。
必死に余裕を装いながらも、抱きしめる腕に力が入ってしまう義勇。
その子供のような懸命さと独占欲に、ゆきの凍えていた心は、徐々に溶かされていく…。