第71章 新しい継子〜時透無一郎 冨岡義勇
無一郎の沈黙を、耀哉は責めることなく見守っていた。
しかし、隣に立つ美月がその静寂に耐えかねたように、口を開く。
「お館様、それは仕方のないことではないでしょうか。彼女は自ら不貞を働き、無一郎様を裏切ったのです。そんな女性がいつまでも身近にいては、無一郎様の心が休まりません。寮へ移るというのも、せめてもの罪滅ぼしなのでしょう…水柱様の継子を辞退するのも当然だと思います。」
その言葉は、無一郎の心にある「裏切られた」という傷をえぐるような言葉だった。
「ゆきは、何と言っていたんですか?」
無一郎の声は、震えていた。
「『彼をこれ以上、私という重荷で縛りたくありません。どうか…彼を自由にしてあげてください』と言っていた…無一郎、君はどうしたい? 彼女の望み通り、このまま縁を切り、彼女が独りで茨の道へ進むのを見送るかい?」
耀哉の瞳は、まるで無一郎の心の揺らぎをすべて見透かしているようだった。
「それは…」
無一郎の脳裏に、かつて自分に向けられた彼女の柔らかな微笑みが、映し出される。
そして思い出す
一緒に過ごした日々…ゆきが記憶を無くした時の事…ゆきに「好き」と言われた日の事…
血鬼術のせいで、男性恐怖症を治そうとしたのは、自分と寄り添うためだったのではないか。でもだからって他の男に抱かれるなんて…やっぱり汚いよ…
だけど…君の笑顔が頭をよぎる
「…僕は…」
言いかけたその時、美月が無一郎の腕を強く抱き寄せた。
「無一郎様、惑わされてはいけません。彼女はそうやって同情を引こうとしているだけです。婚約者がいるのに他の男に身を捧げた女ですよ…汚いですよ…。私が側で無一郎様を精一杯支えます。」
美月が、心配そうに僕を見てくる…。そこにゆきの顔が思い浮かぶ…
「お館様…少し、考えさせてください」
無一郎はそれだけを絞り出すと、耀哉に一礼し、美月の呼び止める声も聞かずにその場を後にした。
向かう先は、自分の屋敷ではない。
冷たい風が吹く中、無一郎の足は、ゆきが荷物をまとめているであろう蝶屋敷の病室へと無意識に向いていた。
腹が立つ…だけど…だけど…君と過ごしてきた時間もまた嘘ではないくらい愛おしいから…
でも会えばきっと…君を…虐めてしまう…