第71章 新しい継子〜時透無一郎 冨岡義勇
翌日、無一郎はお館様からの呼び出しを受けた、その傍らには当然のように美月が寄り添っていた。
彼女の存在に、耀哉はかすかに眉をひそめるが穏やかな声で口を開いた。
「無一郎、急に呼んですまないね。今日は、ゆきについて話があるんだ」
無一郎は無表情を装いながらも、胸の奥でざわめきを感じていた。
あの泥まみれの団子が、脳裏をよぎる。
「彼女から、婚約を解消したいと申し出があったよ」
その言葉が落ちた瞬間、無一郎の頭は真っ白になった。
美月が勝ち誇ったように密かに口角を上げる中、耀哉は静かに続ける。
「彼女はね、自分が君の未来を曇らせる重荷だと信じ込んでいる。だから婚約を解消したいそうだ。」
無一郎の心に、言いようのない複雑な感情が渦巻く。
自分を裏切った…ゆきは、男性恐怖の克服の為に、不死川さんや冨岡さんと身体を重ねたんだ…
だから汚い…許せない…裏切りだ…
だけど…
いざ「自由にしてあげてほしい」というゆきの願いを突きつけられると、心に空いた穴が余計に深く、暗く広がっていくのを感じずにはいられなかった。
「彼女は、義勇の継子も辞退すると言っている。鬼殺隊には残るが、しのぶの所にも長くは居られないからと、一般隊士の寮へ移りたいと言うのだが私の気が進まなくてね。」
耀哉の言葉に、無一郎は息を呑んだ。
「あそこは…女性が入るような場所じゃ…」
そう鬼殺隊士の寮は、血気盛んな男たちが集う場所…
男性恐怖症を抱え、心身ともに衰弱したゆきが行けばどうなるか。
「そうだね…あそこは女性一人が住むには覚悟がいるし危険が伴う。蝶屋敷に留まるのが一番安全なのだが…彼女は頑なだ。自分が君の視界に入る資格はないと思い詰めている」
その自己犠牲的な決断は、ゆきがいかに無一郎を想い、絶望しているかの証でもあった。
何なんだよ…僕が冷たくしても冨岡さんに頼ればいいじゃないか…優しく慰めてもらえばいい
何でわざわざ危ない目に遭いに行こうとするんだよ…
君が悪いのに…
隣では、いよいよ無一郎が自分の元に来ると確信した美月の温度とは裏腹に、無一郎の心内は複雑だった「このままゆきを失っていいのか」という気持ちが静かに、けれど確実に芽生え始めていた。
憎いのに…気になる…