第71章 新しい継子〜時透無一郎 冨岡義勇
翌日、ゆきは泣き腫らした目で鏡の前に立っていた。
「昨日は…きっと、何かの間違いだったんだよね?」
自分に言い聞かせるように呟き、ゆきは再び無一郎の元へと向かった。
昨日無惨に汚れた団子の代わりに、今度は無一郎が以前「好きだ」と言ってくれたふろふき大根を丁寧に作り、重箱に詰めて。
生け垣近くに来た時に昨日の団子がまだ落ちていて蟻が集っているのに気が付いた。
胸が痛んだが進み、門をくぐった…ゆきの目に飛び込んできたのは、昨日よりも残酷な光景だった。
「無一郎様、見てください! 技のキレ、良くなりましたか?」 「うん。美月は筋がいいね。僕が教えた通りだ」
庭先で、無一郎が新しい継子の美月の肩に手を置き、優しく微笑んでいた。 自分だけに向けられていたはずの、あの穏やかな体温。
「む、無一郎くん…」
ゆきの震える声を聞き、無一郎の表情から一瞬で温度が消えた。
「また来たの? しつこい人は嫌いだよ」
「あの、これ…昨日のお詫びにって。無一郎くんの好きなもの、作ったから…」
差し出された重箱を、無一郎は受け取ろうともしない。 それを見た美月が機転を利かせた。
「無一郎様、この方が例の…? 私お茶入れてきます」
「行かなくていいよ美月…稽古の邪魔だから帰ってくれるかな?作ったものも持って帰って。」
無一郎はゆきを軽蔑するような目で見下ろし、吐き捨てるように言った。
「君が作ったものなんて、汚らわしくて食べる気もしない。そんなに男に媚びたいなら、冨岡さんと不死川さんに食べてもらいなよ」
「えっ? どうして、そんなこと…」
「僕よりその二人と居る方が楽しいでしょ?僕よりずっと大人だし…親密でしょ?三人で楽しんだら?」
「な、何か誤解してない?」
ゆきの手がガタガタと震え出す。 しかし、無一郎は冷たく背を向けた。
「もう二度と、僕の屋敷の敷居を跨がないで。…美月、稽古を続けようか」
「はい、無一郎様!」
背後で響く、竹刀が空を切る音と二人の笑い声。ゆき は重箱を抱えたまま、その場に立ち尽くしていた。
「む、無一郎様?いいのですか?あの方あそこでずっと立ったままですよ?」
無一郎は、少し考えた…僕がどれだけ君に傷つけられたか…
君も同じ気持ち味わえばいいんだ…