第71章 新しい継子〜時透無一郎 冨岡義勇
縁側の方へ向うと、継子の美月がお団子とお茶を用意して待っていた。
「どなたかいらしてたのですか?」
「うん…ゆきが来てた」
「ゆき?…もしかして噂の婚約者様ですか?私お邪魔でしたね…すいません無一郎様を呼んでしまい」
申し訳なさそうに頭を下げる美月が、無一郎はなんだか愛おしく感じた。
「いいんだ。君の作ったお団子美味しそうだね。いただきます」
無一郎は、縁側に腰掛けて口に頬張った。
そこからゆきが、立っていた場所が見渡せた。
地面にに投げ出された団子がみえる…。
「汚れてる」
それが泥にまみれているからではなく、それを作ったゆきの手が、自分以外の男たちに触れられたから余計に汚く感じた。
しのぶから聞いた言葉が、呪いのように頭の中で繰り返される。
「信じていたのに…冨岡さんとはもうきっぱり終わったと思っていたのに…騙されたよ…」
美月は、急な無一郎の独り言に戸惑った…。
無一郎は、お茶を一気に飲み立ち上がり美月に告げた
「美味しかったよ。部屋に戻るね」
そう言い残しかつてゆきと二人で静かに過ごした部屋へ向かった
部屋に戻ると、無一郎は畳の上に力なく座り込んだ。
鼻をくすぐるのは、わずかに残るゆきの甘い香り。
「僕だけを見てるって言ったじゃないか」
「二人で治していこうって、約束したのに」
「どうして、冨岡さんなの? 不死川さんなの?」
自分が命を懸けて任務に当たっている間に、ゆきは他の男たちの腕の中にいたという現実。
「もう…いいよ」
無一郎の頬を、一筋の涙が伝い落ちる。
「ゆきなんて…いらない。あんなに汚れてしまった人は、もう僕の知っている君じゃない。汚い…」
自分に言い聞かせるように呟く声は、震えていた。
その時、ふと、先ほど中庭で見せた美月の真っ直ぐな瞳を思い出した。
彼女だけは、自分を裏切らない。自分だけを求めてくれる。
無一郎は、ゆきとの思い出が詰まったこの部屋で、ゆっくりと、自分の中の「ゆき」を殺していくような感覚に陥っていた…。
しのぶの何気ない嘘によって無一郎もまた苦しんでいた…。
部屋の隅にかつてゆきと作った紙飛行機が、落ちたままだった…。