第70章 練習の終わり〜冨岡義勇 不死川実弥
「おい…ッ!?ゆき 、しっかりしろォ!」
咄嗟に抱きとめた不死川の顔が、一気に赤く染まる。その目は激しく泳ぎ、腕の中の柔らかな感触に動揺を隠せない。二日前高熱を出したゆきに自分がしてしまった行為を思い出す…
不死川は、はだけかけたゆきの浴衣の隙間から覗く胸元に散らされた重なり合った痕を見てしまったのだ。
もしかして、俺の後で冨岡が付けたのか…?
無一郎が、不機嫌そうに問いかける。
「不死川さん。何の用? ゆきと、大事な時間を過ごしてたんだけど」
「…あァ、わりィな。だがよォ、テメェ…こいつが二日前に高熱出してぶっ倒れてたのを知らねェのか?ちょっと心配で様子見に来た、 まだ病み上がりなんだよ、無理させんじゃねェ」
それを聞いた無一郎の瞳が、わずかに揺れた。
熱…? そうか、だからあんなに震えて、顔色が悪かったんだ。僕のせいじゃなくて、体調が悪いのに、気を失うほど頑張っちゃったんだね…
無一郎は知らない。彼女が震えていたのは、無一郎の強引さがトラウマを呼び起こしたからだ。だが、「高熱」という言葉は、無一郎にとって都合の良い解釈を与えてしまった。
「そうなんだ…。熱があるなら、無理させちゃったな。だから気を失っちゃたんだ…」
無一郎が素直に引き下がり、一歩近づこうとする。 不死川は浴衣の合わせ部分から口付けの跡が見えそうだったので、しっかりと合わせ直し無一郎から見えないようにした。
「風に当てねェようにしないと、また熱出すぜ。すぐに寝かせてやるからよォ。時透そこ邪魔だ」
ゆきを慎重に、ベッドに寝かし、しっかりと毛布をかけてやった。
「僕が任務に行ってる間にゆきは、異性を怖がる血鬼術が弱まってきたの?任務に出る前は隣に座るくらいしか無理だったのに…」
「かもな…でもあんま無理させるなよォ。今夜は帰れ、お前も任務明けで疲れてんだろォ。」
確かに、無一郎は疲れていた。不死川の的確な言葉に無一郎も納得した。
「わかった」
二人の気配が消え、私は安堵の吐息をついた。不死川さんが咄嗟に胸元を隠してくれたおかげで、最悪の事態は免れた。
不器用な気遣いに心から感謝した…けれど、その下に残る痕跡の半分が、彼自身によって刻まれたものだとは、今の私はまだ知る由もなかった。