第69章 淫らな六つの夜〜時透無一郎 冨岡義勇 不死川実弥【R強強】
その頃ー
義勇の焦りは、もはや隠しようもなかった。
下弦程度の鬼など、今の義勇にとっては道端の石を退けるに等しい。
凄まじい脚力で寺の裏手を駆け抜け、血の匂いを辿る。
「いたか」
闇に潜んでいた鬼が声を上げる暇もなかった。
「水の呼吸、肆ノ型打ち潮」
一瞬で頸を跳ね飛ばした。
同時に、すぐさま刀を鞘に納め意識は、蝶屋敷へと向いた。
今義勇の頭をよぎるのは、熱に浮かされた継子のゆきと、彼女を看病しているはずの不死川の姿だった。
不死川が道理に外れたことをする男ではないと、信じたい。だが…昨夜あいつは、水に濡れたゆきの体を見てあきらかに、顔が高揚していた…
あの姿を見た次の日に、高熱で無防備なゆきを前にして、平然としていられるだろうか。
胡蝶の言った無自覚な誘惑という言葉が、胸に刺さる。
早く蝶屋敷に戻らねば…
しかし、寺の出口で待っていたのは、笑みを浮かべたしのぶの姿だった。
「おや、もう終わらせたのですか。流石は水柱、早業ですね」
「どけ、胡蝶。報告は後だ」
「そうはいきません。この界隈にはまだ鬼の気配が残っています。念のため、朝まで周辺の警戒にあたるのが柱の責務ですよ」
義勇が強引に通り抜けようとするが、しのぶはその前に立ち塞がる。
「そんなに怖い顔をしないでください。不死川さんも柱ですよ? 信用なさい。…それとも、信じきれないほど彼女が魅力的なのですか?あぁ…無自覚な誘惑が心配ですね。ですが、貴方は柱です。わかっていますね?何を優先すべきか?」
義勇は、図星を突かれ黙り込んだ。
信じたい不死川の理性を…
義勇の拳は、やり場のない焦りで固く握りしめられていた。
ゆき…俺はまたあの日雪山にお前を、一人にしてしまった過ちを、今また繰り返そうとしている…
「私は、あちらの森を見回ります。冨岡さんは、お寺の周辺をお願いします。」
「…承知した…」
「そんな、怖い顔なさらないでください。冨岡さん」
義勇は、近くの木を力一杯拳で殴ぐり寺の正面の門に向かった。
「あらあら…そんなに、あの子が大切なんですね…。」
ゆき…今何をしているのか?不死川…どうか…お前の理性を信じたい…