第68章 偽りの日々〜冨岡義勇 時透無一郎
あの日以来無一郎は、無理にゆきに近づかなくなった。
必ず扉の隣に椅子を置いてそこから動かなかった。
「足痛む?」
無一郎が、椅子に腰掛けて折り紙を折りながらゆきに質問した。
「うん…まだ歩けないくらい痛い…」
「崖から落ちたんだよね?」
「そ、そうだよ」
ゆきは、まっすぐ見つめてくる無一郎から目線を外した。
本当は、山賊に踏まれ蹴られ握られ足首を痛めつけられた…。その時の光景が脳裏を霞む…
無一郎は、ゆきの手が小刻みに震えているのに気が付いた。
「嫌なこと思い出させちゃったねゴメン…辞めようこの話は」
無一郎くんの屈託のない綺麗な笑顔が私には眩しすぎる。
「無一郎くん…もう少しそばに来て…」
「えっ?いいの…怖くない?」
「来て」
無一郎は椅子から立ち上がり、ゆきの呼吸に合わせてゆっくりと歩み寄った。
ベッドの傍らに跪いた無一郎は、見上げるような形でじっとゆきを見つめる。
「ここなら、怖くない?」
手を伸ばせば、彼の柔らかな髪や頬に触れられる距離。
無一郎は、真っ直ぐに愛おしいゆきを見詰めた。
ゆきは震える手を伸ばしかけ、あと少しのところで躊躇した。
男性への恐怖と、彼への愛しさが胸の中でせめぎ合う。
すると無一郎は、自分からは触れずに、ゆきの指先にそっと自分の吐息が届くほど顔を寄せた。
「ゆきの気が向くままでいいんだよ。僕はどこにも行かないし、君を傷つけるものは全部僕が斬るから」
甘く囁くような声と、熱い視線。
触れそうで触れない指先にも無一郎の熱が伝わってくる。
「こんなに近くで、久しぶりに君の顔を見れただけで僕は今幸せだよ。今夜の任務も頑張れるよ。ありがとう」
ゆきの目から大粒の涙が無一郎の目の前に落ちてくる…。
「涙を拭ってあげたいけど…怖いよね…」
無一郎は、ゆきを今すぐにでも抱き締めたくて堪らなかった。
「拭ってほしい、だけど、まだ怖いの」
震える声で告げたゆきに、無一郎は愛おしそうに目を細め伸ばしかけた手を静かに下ろた。
ーその頃
不死川と義勇は、ゆきを襲った山賊達が投獄されている場所へと、向かっていた。