第68章 偽りの日々〜冨岡義勇 時透無一郎
蝶屋敷の中庭を、義勇は見渡した。門の方へ歩く無一郎を見つけ駆け寄った。
「待て…ゆきがお前を呼んでいる」
無一郎は、義勇に背を向けたまま口を開いた。
「行っても扉のすぐ隣で僕は立ったままゆきの近くには行けない。毎日会いに来てたけど楽しくない。だから帰るよ」
「じゃあ俺はそのままの言葉をゆきに伝える。あいつが悲しくなり泣いたら俺は抱きしめて慰める…いいんだな?」
無一郎は、拗ねた表情で振り返り義勇にわざとぶつかってから屋敷の中へ入って行った。
「世話がやけるやつだ…俺もあいつが好きなのに…」
義勇は、深い溜め息をついた…。
蝶屋敷の廊下を無一郎は、足早に歩きゆきの病室の前に止まった。
息を整えゆっくりと扉を開いた…。
「無一郎くん!戻ってきてくれた…」
久しぶりに見るゆきの笑顔に、先ほどまで冨岡さんに嫉妬していた気持ちが薄れた…。
「笑った顔を久しぶりに見た。」
無一郎が、思わずゆきに歩み寄ってしまった。
僅かに震えてる手をゆきは、掛布団で隠した。
無一郎くんが、近づく…
無一郎くんの隊服はゆったりしていて体格があまりわからない…だけど…時々覗くゆったりとした袖から見える白くも筋の通った男の腕。…山賊の腕を思い出す…
だめ。思い出さないで。
これは無一郎くんの腕。私を守ってくれる、優しい手なのに…
怯える様子に気づいた無一郎は、部屋の端に後退りした。
「今怖かったね…ごめん。それにさっきもごめんね…」
ゆきは、涙を浮かべた…
「明日も…会いに来て欲しい。触れ合う事できないけど…いい?」
「泣かないで…明日も来るよ。」
「無一郎くん…ごめんね」
「いつか抱きしめさせてね…君をこの腕の中に…」
無一郎は切なげに目を細め、扉に手をかけた。
「次はもっと、君が安心できる距離を探すから。むやみに近づかないよ。約束する…大好きだよゆき…」
最後にもう一度だけ優しく微笑むと、無一郎は静かに部屋を後にした。
自分の事を想ってくれている事が痛いほど伝わってきた…。
だから余計に、山賊に汚された自分が許せなかった…
私が弱いから襲われたんだ…
絶対知られたくない…無一郎くんに…知られたら…嫌われてしまう…
軽蔑される…