第68章 偽りの日々〜冨岡義勇 時透無一郎
「どうして、冨岡さんは平気なの? 僕じゃ、ダメなのに」
無一郎の声が震える。
その問いに、義勇は盆を抱えたまま、表情を変えずに無一郎を見た。
義勇の胸中には、真実を隠し通さねばならない事と、目の前でボロボロに傷ついているゆきを、婚約者である無一郎に代わって守らねばという義務感があった。
「俺は、こいつの怪我の程度を正確に把握しているだけだ。ゆきも俺が、師範だから委ねているだけだろう。俺は何の私情もない。」
「嘘だ。冨岡さんの手、すごく優しかった…」
無一郎が声を荒げ、ゆきのいる方へ一歩足を踏み出した。
その時ゆきは反射的に、ビクリと肩を震わせ、布団を強く握りしめてしまった…。
その拒絶の反応を見た瞬間、無一郎の足が止まる。
「ほら。やっぱり、僕が動くとゆきはあんなに怯える。冨岡さんには、あんな反応しない!」
「無一郎くん、違うの…!」
無一郎は、今にも泣き出しそうな顔をして部屋を飛び出してしまった。
「ま、待って!無一郎くん…違うの…!行かなで!!…私は…」
ゆきは、無一郎を追いかけようとしてベッドから落ちそうになる
「危ない!追うな構わなくていい」
義勇は静かに、ゆきを抱えてベッドに横にした。
「無一郎くんに、悲しい思いさせちゃった…どうしよう…私が汚いから無一郎くんに触れるのが怖いの、あの日を思い出すの…!」
「今は何も考えなくていい。俺がここにいる。俺を頼れ!お前は清らかだ…」
その体温と揺るぎない言葉に、強張っていたゆきの力は次第に抜け、涙と共に安らぎが広がっていく…。
無一郎くんのあんな顔を見たの初めてだった…
毎日任務で大変なのに、ずっと私の元に来てくれていたのに…傷付けた…目にも涙を溜めていた…
「ぎ、義勇さん…お願いがあります…」
「なんだ?」
「無一郎くんを連れ戻してきてください…私…無一郎くんにあんな顔させたくない…だからお願いします」
「ゆき、無理に急ぎ過ぎなくてもいいんじゃないか?時透も感情的になり過ぎだ…」
「義勇さん…お願いします…お願い…」
義勇は、戸惑いながらもゆきに回していた手を名残惜しそうに離して無一郎を探しに渋々部屋を出た…