第68章 偽りの日々〜冨岡義勇 時透無一郎
義勇は、空になったコップを盆に置き、静かに問いかけた。
「時透が、そんなに怖いか?」
その問いに、ゆきは喉の奥で小さく息を詰まらせ、ゆっくりと首を振った。
「ち…がう、んです。無一郎くんが、怖いんじゃなくて…」
溢れ出した涙が、真っ白な布団にシミを作っていく。
「私…山賊に…もう、汚れてしまったから。 あんなに綺麗で、真っ直ぐな無一郎くんに、顔向けなんてできない…。触れられるのも、私の汚れが移ってしまいそうで、怖くて…」
今のゆきにとって、無一郎の純粋な愛情は、自分の汚れを際立たせる眩しすぎる光となってしまっていたのだった。
「男の人が、怖いんです。誰に触れられても、あの時のことを思い出して…身体が勝手に…っ」
激しく肩を震わせるゆきを、義勇はただ静かに見守っていた。
「なら、なぜ俺の手からは水を受け取った。俺も、男だ。それに今もこんなに側に座っている」
ゆきは、自分の指先を見つめ、消え入りそうな声で答えた。
「あの日私に義勇さんが言ってくれた言葉…お前は清らかだってあの言葉で、義勇さんは私を汚らわしく思っていないんだと思うと安心するし怖くないんです」
義勇は短く息を吐くと、窓に目を向けた帰る途中の時透の姿があった
「そうか…」
次の日ー
任務で疲れているはずなのに無一郎は、朝からゆきの元に来ていた。
「ここなら怖くない?」
扉のすぐ近くに椅子を置いてゆきから遠く離れた。
「う…ん。」
「紙飛行機作ったんだ飛ばしてもいい?」
「うん」
無一郎はふわりと微笑むと、手元の紙飛行機をそっと廊下側から部屋の奥へと飛ばした。
真っ白な紙飛行機は、緩やかな弧を描いて、ゆきの膝元へと静かに着地する。
「あっ…」
ゆきが恐る恐る手を伸ばし、それを拾い上げる。
指先に伝わる紙の感触。
それは、かつて自分も知っていたはずの、なんてことのない日常の質感だった。
「上手だね、無一郎くん…」
「うん。でも、本当はもっと近くで教えてあげたいんだけどな」
それを言われると苦しくなる…
「私こんなんで、ごめんね…楽しくないよね?一緒に居ても…」
「楽しいよ!側にいれるだけで僕は満足してるよ。」
「でも…」
「気にしないで」