第66章 秘密〜時透無一郎 冨岡義勇【R】
夜が明け、藤の家を朝霧が包む頃…。
昨夜の情事の熱を肌に残したまま、ゆきはふと、無一郎の腕を抜け出して中庭に面した縁側に出た。
ふと視線を落とした先、霜が降りた枯れた草の中に、見覚えのある輝きを見つける。
「えっ…?何で…」
それは、かつて義勇の屋敷で義勇が池に投げ捨てた、髪飾りだった。
なぜこんな場所に。
泥ひとつ付いていないその輝きは、誰かが大切に持っていて、そして今、投げ捨てられたばかりであるかのようにそこにあった。
そこへ、隊服に着替え身支度を整えた義勇が通りかかった。
「義勇、さん…」
ゆきが呼びかけると、義勇は足を止めたが、振り返りはしなかった。
義勇の視線は、ゆきの指先にある髪飾りを捉え、冷たい視線で見据えた。
「こ、この髪飾り…池に捨てたやつ…もしかして義勇さん…見つけてくれてずっと持っててくれたんですか?」
切なそうな顔で、俺を見てゆきは聞いてきた…。
浴衣の胸元が、乱れたままでやけに肌がよく見える。お前は、昨夜の情事で時透に付けられたであろう唇の跡を、気付かぬまま俺に見せつけて、その思い出の髪飾りのことを、問いかけてきた…。
冷たい朝露に濡れた縁側で、俺たちは一歩も動けずにいた。
ゆきが大事そうにその髪飾りを握りしめるたび、俺の胸の奥に、えぐられるような痛みが走る。
お前のその真っ直ぐな瞳は、いつも俺の隠したい本音を見透かそうとする。
俺はゆっくりと視線を上げ、ようやくゆきの顔を正面から捉えた。
「そうだ…」
一歩、間を詰める。
ゆきの肩がびくりと強張るが、俺は構わずに手を伸ばした。
指先で、お前の鎖骨付近に残る時透の痕跡を、なぞるように触れた。
指先から凍りつくような嫉妬が全身に回った。
「捨てたはずのものを、どうしても捨てきれずに持っていた…。滑稽だろう」
俺はゆきの手に重なるようにして、その髪飾りを包み込んだ。
俺の手は微かに震えている。
突き放したいのに、抱き寄せたい。
忘れたいのに、愛おしくてたまらない。
俺はゆきの耳元に顔を寄せ、お前の甘い香りに酔いしれたかった…だが香ったのは時透の付けた男の香りだった。