第66章 秘密〜時透無一郎 冨岡義勇【R】
重なった唇から伝わるゆきの熱と、甘い吐息。
無一郎は一瞬だけ目を見開いたものの、すぐに愛おしさが溢れ出したように目を細め、添えられたゆきの手の上に自分の手を重ねた。
「ずるいよ…。そんなことされたら、もう離してあげられない」
唇を離した無一郎の声は、先ほどよりも優しく、熱を帯びて響く…。
無一郎はゆきの手首を優しく掴み、布団の上に拘束し再び深く深く、吸い付くような口づけを落とした。
その頃義勇は、藤の家で一人湯船に浸かっていた。
先ほどまで、ゆきに触れていた…ゆきの体を熱くさせていた自分の指を眺めていた。
虚しさと寂しさを暖かいお湯が癒してはくれなかった。
「今頃…抱かれてるのか?時透に…」
義勇は、力いっぱい湯船のお湯を叩いた。お湯が飛び散り虚しくも自分に振りかかる…
「滑稽だな…俺は…」
義勇が浴室を出ると、静まり返った廊下には冷えた空気が流れていた。
外の風の音さえ聞こえない無音の廊下…のはずだった。
自分の部屋へ向かう足が、ある一点で凍りついたように止まる。
障子越しに漏れ聞こえてきたのは、微かな、けれどあまりに鮮明な…聞きたくない音…。
重なり合う衣擦れの音、そして、押し殺しても漏れ出してしまうゆきの甘い甘い声。
それは、義勇が先ほどまで必死に自分に向けさせようとしていた、ゆきの声だった。
「…っ、むい、ちろう…くん…」
名を呼ぶ声は、苦しいほどにとろけていた。
それに答えるように重なる、無一郎の低く、優しい吐息混じりの声。
「言ったでしょ…。もう離さないって」
無一郎の言葉は、かつての幼さを微塵も感じさせないほど男らしく、なっていた。
再び重なる唇の音、そして布団が擦れる音が、義勇の鼓動を嫌な速さで打ち鳴らす…。
周りに聞かせてやりたかったゆきとの情事の音を、今俺が反対に聞かされている…。
時透の腕で悶えるゆきの声を…
本当に俺は、滑稽だ…
義勇は、手に持った隊服の胸ポケットから何かを取り出して中庭に投げた。
中庭に、転がり落ちる光るもの…。
「あっ…んっ…」
聞きたくない声が廊下に微かに響く…
「嫌な声だ…」
義勇は、浴衣姿で淋しげに自分の部屋に戻って行った。