第65章 雪山での秘密の情事〜冨岡義勇【R】
しのぶの強引な誘いに流されながらも、義勇の心は道場に残してきたゆきのことで一杯だった。
あんな物言いをするつもりではなかった…
不器用な自分への嫌悪感と、ゆきを傷つけた後悔。
忘れ物を取りに行くという口実でしのぶを撒き、急ぎ足で道場へ戻った義勇が目にしたのは、思いもよらない光景だった。
「あ…。」
道場の入り口で、義勇の足が止まった。
そこには、先ほどまで自分が突き放したはずのゆきが、時透の胸に顔を埋め、甘えるように抱きついている姿があった。
「よしよし…大丈夫だよ、ゆき」
無一郎の、聞いたことがないような柔らかく愛に満ちた声…。
そして、あんなに怯えていたはずのゆきが、無一郎の腕の中で安堵したように体を預けている。
「っ…」
義勇の心臓が、煩いくらい音を鳴らす。
自分が突き放し、絶望させた場所を、無一郎がやすやすと埋めている。
ゆきにとって、自分は「傷つける存在」であり、無一郎は「癒やしてくれる存在」なのだという現実が、残酷なほど鮮明に突きつけられた。
無一郎が、入り口に立つ義勇の気配に気づき、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳には、いつものぼんやりとした様子はなく、「僕の大切な人に触れないで」という無言の圧それに冷ややかな表情をしていた。
「冨岡さん、まだ何か用? ゆきなら、僕が慰めるから別に構わなくていいよ…これからも厳しく指導してやって」
無一郎のその声に ゆきは、反応した。見ると義勇がこちらを見て立っていた。
前までなら絶対に、無一郎くんとのこんな姿見せたくなかった。
だけど…義勇さんに私は嫌われている…
胡蝶さんと一ヶ月任務に二人きりで出てから二人は仲がいいし…きっともう恋人同士だよね?
私には無一郎くんが、いる…。こうやって側に居てくれる…そう思った瞬間、強く無一郎に抱きしめられた。
暖かくて強い腕…安心する…
その光景を目の当たりにして義勇は早くこの場から去りたい気持ちでいっぱいになった。
「邪魔して悪かった…」
義勇は、複雑な気持ちで道場を後にした。
「あんなに近くにいたはずなのに、俺が傷つけた隙間を、あいつが埋めていく。突き放したのは自分なのに、胸が張り裂けそうだ。走りより奪い去りたいと思うくらいだ…」