第65章 雪山での秘密の情事〜冨岡義勇【R】
義勇の背中が、わずかに強張った。
図星を突かれた動揺を悟られぬよう、義勇はゆっくりと振り返り、氷のように冷ややかな視線をゆきに向けた。
「何が言いたい…」
「だって、いつもより剣筋が…。私を気遣っているのなら、それは…」
「自惚れるな」
義勇の声は低く、突き放すような響きだった。
「お前の動きがあまりに鈍いから、こちらの調子が狂っているだけだ。今のお前を相手に本気を出せば、稽古にすらならない。ただの『壊し』だ」
ゆきが息を呑むのがわかった。
その瞳にわずかな傷つきの色が浮かぶが、義勇はあえて追い打ちをかけるように言葉を重ねる。
「痣を庇い、腰が引けている者に教えることは何もない。戦場では鬼は待ってくれない。その程度の覚悟なら、今すぐ刀を置け。目障りだ…」
「ごめんなさい…」
ゆきは唇を噛み締め、深く頭を下げた。
その時、道場の入り口から、場にそぐわない軽やかな声が響く。
「あらあら。相変わらず甘いですね冨岡さん」
振り返ると、そこには胡蝶しのぶが立っていた。
「何の用だ?俺達の稽古に構わないでくれ」
「ちょうど診察の合間でして。冨岡さん、まだお昼を食べていないでしょう? たまには一緒にどうですかと誘いに来たんですよ。」
ゆきを横目にしのぶは、義勇の腕を掴みに歩み寄った。
「さあ、行きましょう。そんなに怖い顔をしていては、せっかくの御飯も不味くなりますよ」
「俺は、まだ片付けが…。」
「そんなものは後です。行きますよ。拒否権はありません」
しのぶの有無を言わせぬ空気に、義勇はそれ以上言葉を返せなかった。 義勇は一度だけ、立ち尽くすゆきの背中に視線を向けたが、すぐに目を逸らして道場を後にした。
胸の奥が、焼けるように痛んでいた。
ゆきは、残された道場で一人ぼんやりと座っていた。
すると道場の入り口の戸が開いて誰かが入ってきた。
「心配だから来ちゃったよ」
無一郎だった。ゆきは、無一郎を見ると走って胸に飛び込んだ。
えっ?えっ?なに…?どうしたの?僕に来てくれるの?
「何で一人なの?」
「義勇さんはしのぶさんとご飯に行ったの」
無一郎は、まさかこんなに自分に甘えてくれると思ってもみなかったので心から嬉しかった。