第65章 雪山での秘密の情事〜冨岡義勇【R】
胡蝶がゆきに、厳しい稽古をつけて怪我を治すために休ませて三日がたった…。
今日…稽古に来るはずだ…俺は…何故かソワソワしている。
昨日の夜から…胸が高鳴る。
道場の戸が開いた。
「あっ! 師範…お休みもらってすみませんでした」
「もう体は痛くないか?」
「少し痛みますが我慢出来る痛さです。」
俺はゆきの方へ一歩歩み寄り、あえて感情を殺した声を出した。
「無理をするな。痛むのであれば、今日も休めばいい。足手まといを置くつもりはない」
「大丈夫です…稽古できます」
「そうか…」
三日前に手首あたりにあった痣は少し薄くなりに治りかけていた。
義勇は、それを見て少し安心した。
三田達は任務に出て居なかった…義勇とゆきの二人だけの稽古だった…
俺はこいつの為にはなっていないとわかっているのに…やはり手を抜いて稽古をつけている…
怪我をさせたくないから…
任務に出たら俺が命をかけて守り抜く…甘いと言われても…だから
義勇は、目の前の小さな背中を見つめながら、己の内にある矛盾に静かな葛藤を覚えていた。
水柱として、隊士を鍛え上げる責務がある。
甘やかしは死に直結する。しかし、この数日間、ゆきの怪我を案じては落ち着かない夜を過ごしたこともまた、紛れもない事実だった。
「始めるぞ」
義勇は木刀を構えた。ゆきもまた、気合を入れた表情で構え直す。
打ち込みが始まる。いつもより鋭さはないが、一つ一つの動作にゆきの懸命さが滲んでいた。
「腰が高い。重心を落とせ」 「はい!」
指導しながらも、義勇の視線は無意識にゆきの手首の痣を追ってしまう。激しい打ち合いになれば、またそこが痛むのではないか。皮膚の下で血が滲むのではないか。
その「迷い」が、義勇の剣筋をわずかに鈍らせていた。
数刻後、ゆきが息を切らして膝をついた。 額からは汗が流れ、手首を無意識に庇うような仕草を見せる。
「今日はここまでだ」 「えっ、でも、まだ……」 「これ以上は効率が落ちる。休むのも稽古のうちだと言ったはずだ」
義勇は冷淡を装い、背を向けて片付けを始めた。
だが、その足元にゆきが歩み寄ってきた。
「師範……。あの、もしかして……手を抜いてませんか?」