第64章 快楽に酔う〜時透無一郎【R強強】
義勇は、無一郎に鴉を飛ばした。ゆきを迎えに来てほしいと…。
自分が、連れて帰るより無一郎を呼ぶ方が良いと思った。
布団に横たわるゆき…を、義勇は見ていた…。
隊服の腕から覗く白い手に痣が出来ている…。綺麗な体に傷をつけたくない…
大事に屋敷の中にしまっておきたい。俺のものにして。
時透と婚約していることは承知だ…
諦めると決めたのに…目の前にお前がいると…胸がぎゅっと苦しくなり触れたくなる
昨日の唇の柔らかさ、味が忘れられない…。
寝息を立てるゆきに顔を近づけていった…
もう一度だけ…欲しい…
恐る恐る唇を重ねようとしたその時…ゆきの目が開いた。
義勇も、それに気づきすぐに顔を離した。
「こ、ここで暮らしていた頃のお前の世話をしていた隠を呼んでくる」
それだけ言い残し一切こちらを見ずに出て行った。
義勇が部屋を飛び出した後、残された空気には義勇が発していた熱と、言葉にできないほど重い沈黙が混ざり合っていた。
静かに閉まったふすまの向こう側で、義勇は壁に背を預け、激しく脈打つ鼓動を抑えるように胸元を強く掴んでいた。
目が覚めた瞬間、視界いっぱいに広がっていたのは、いつになく揺れ動く義勇さんの瞳だった。
触れそうなほど近かった体温が急に遠ざかり、荒い足音と共に義勇さんはいなかった。
「義勇、さん?夢?」
その名を呼んでみるものの、返事はなかった。
数刻後、義勇が呼んだ隠が到着するより先に、屋敷の入り口から静かだが、どこか威圧感のある足音が響いてきた。
柱特有の、研ぎ澄まされた気配。
義勇が飛ばした鴉を受け取り、時透が到着したのだった。
「迎えに来たよ、ゆき」
「無一郎くん…?何でここに」
「冨岡さんから鴉が来たんだよ。君を迎えに来いって」
無一郎は部屋の中へ一歩足を踏み入れると、布団に座るゆきの元へ静かに歩み寄った。
その表情はいつも通り淡々としているようでいて、微かな苛立ちが揺れていた。
無一郎は側に膝をつくと、義勇が見つめていたその「痣のある手」をそっと取り、自分の両手で包み込んだ。
「冨岡さん、あんなに慌ててどこへ行ったんだろうね。すれ違ったけど、僕と目を合わせようともしなかった」