第63章 冨岡義勇の葛藤〜冨岡義勇
義勇は、ゆきを抱えながら無一郎の屋敷に向かい歩いた。
「言っておくが、師範として継子が稽古で怪我をしたからこういう扱いをしているだけだからな…勘違いするな。」
まだ意識が虚ろなゆきは、何も答えず目を開いたり閉じたりしていた。
少しして意識が軽く戻った…
「……っ、」
ゆきが苦しげに小さく声を漏らし、無意識に義勇の隊服の胸元を掴む。
その指先の心細さに、義勇の足が一瞬止まりそうになった。
だが、義勇はすぐに表情を鉄のように固く閉ざした。
「…しがみつくな。時透に誤解されるのは本意ではないだろう?」
突き放すような冷徹な声。
しかし、その言葉とは裏腹に、ゆきの頭が揺れないよう支える手つきは、自分でも嫌になるほど優しかった。
時透の屋敷に着くと隠に告げられた。時透は任務で今夜は帰らないと…
義勇は、意識の戻らないゆきをそっと布団に横たえた。
「水柱様。後は私共が手当を…」
「いや、俺がする。清潔な水と手拭いを用意してくれ」
「し、しかし…」
「俺の継子だ…他に触らせたくない」
「は、はい。」
隠は、困ったが柱の命は絶対だった。
暫くして隠が、水と手拭いを用意して部屋を出て行った。
義勇が、傷口を拭うためにゆきの細い手首を握り直した時のことだった。
「っ…、…むい、ちろう…くん…」
吐息のような小さな声が、静かな部屋に落ちた。
義勇の動きが、目に見えて止まる。
手拭いを握る指に、思わず力がこもった。
自分があえて冷たく突き放したせいだ。
もう俺の名前は呼んでくれないのか…当然だな…。
胡蝶が俺にくちづけをしてきた所を見てから完全に俺はお前に見切られている…。
嫌われているよな…。お前に…でもいいんだこれで…。
隊服のボタンとブラウスのボタンを義勇はゆっくり開いていく…
白い肌に無数の打撲のあとが見えた…。
胡蝶が手加減無しに手合せをした証拠だな…。
義勇の指先が、痛々しい紫色の痣に触れるたび、ゆきの唇からは耐えきれないといった風に小さな悲鳴が漏れた。
その声が上がるたび、義勇はまるで自分が斬られたかのように眉をひそめ、手拭いを当てる力を極限まで弱めた。
「お…水…おみず飲みたい…無一郎く…ん」