第63章 冨岡義勇の葛藤〜冨岡義勇
「そこまでだ、胡蝶」
鋭い金属音が道場に響き渡った。
しのぶが放った次の一撃を、義勇は自身の刀を鞘に入れたまま、その柄で強引に弾き飛ばした。
二人の間に割って入った義勇の背中は、ゆきにとって誰よりも信頼し、焦がれた背中だった。
しかし今のゆきには、その背中が酷く遠く、冷たいものに感じられた。
「…あら。止めるのですか、冨岡さん。ゆきさんのためを思うなら、今ここで現実を教えるべきでしょう?」
しのぶは羽織をふわりと揺らし、冷たい微笑みを崩さない。
「…今日の稽古は終わりだ。これ以上は、身にならない」
「身にならない? それとも、冨岡さんが見ていられないだけですか?」
しのぶの問いに、義勇は答えなかった。
ただ、背後で力なく座り込んでいるゆきの気配に、神経のすべてを注いでいた。
振り返って声をかけたい。その肩を抱き寄せたい。しかし、昨夜自分が放った「見苦しい」という言葉が、呪いのように義勇自身の足を縛り付けた。
「下がれ…ゆき」
義勇はゆきを見ることなく、ただ低く、突き放すような声で命じた。
視線を合わせれば、自分の決意が緩んでしまうと分かっていたからだ。
「…っ、はい…」
すぐに三田が駆け寄りゆきを抱き上げた。
「大丈夫か?さっき倒れた時に頭打ったろ?俺の部屋で冷やしてやる」
ゆきは、意識が朦朧とした状態で返事は無かった。
しのぶが、冷ややかな視線を向ける。
「本当の戦闘では誰も抱えて手当してくれませんよ。自分で歩きなさい!」
その言葉に、ゆきを抱きかかえていた三田の足が止まる。
三田は義勇としのぶ、二人の柱の間に流れる異常な緊張感に気圧され、唇を噛み締めた。
「しかし、胡蝶様。ゆきは意識が…」
「甘えは死に直結します。三田、あなたも隊士なら理解しているはずです」
「三田。行け」
義勇の声は低くしのぶの言葉を真っ向から否定はしないものの、それは明確な拒絶の意志でもあった。
しのぶは眉をピクリと動かした。
「冨岡さん、邪魔をしないでくださいと言ったはずです。彼女がその甘さを捨てない限り次の任務で死ぬのは彼女自身ですよ?」
「…。死なせはしない、俺が守るから。」