第63章 冨岡義勇の葛藤〜冨岡義勇
「わかりました。あまり無理強いはなさらないでくださいね。ゆきさんが怯えていますから」
足音が遠ざかり、屋敷の静寂が戻ると、義勇は一歩、また一歩とゆきに歩み寄った。
「隠すな。見せろ」
義勇の手が、ゆきが必死に押さえていた指先に触れた。
義勇がその指先をどけた先にあったのは、ただの傷ではなかった。
白く細い首筋に、幾重にも重なり、どす黒く変色した「噛み痕」。
それは無一郎が、夜ごと刻みつけ、独占を誇示してきた残酷な証だった。
「取り敢えず手当てするから来い」
義勇はゆきを自室に連れて行った。
久しぶりに入る義勇さんの部屋…ドキドキしてる…私
義勇は、ゆきを座らせて薬箱を出した…
「手ぬぐいを濡らしてくる…」
そう言い残し義勇は、急いで部屋を出て行った。
暫くして、ふすまが開いた。義勇が濡らした手ぬぐいを持ちゆきの前に腰を降ろした。
見上げると目の前には、この一ヶ月忘れようと努めたゆきが居る…
変わらず可愛らしい目に唇…俺の心を揺るがしてくる
「や、やはり手当は胡蝶に頼むか…まだ帰ってはいないはずだ。」
義勇は、余裕のない表情をゆきに悟られないように目を合わせずに部屋の外へ出た。
義勇は、ふすまを閉め深呼吸して気持ちを落ち着かせてからしのぶを呼びに足を進めた。
‐‐
「これで大丈夫ですよ。夜寝る前にも必ず薬を塗ってくださいね」
しのぶは、ニコニコしながらゆきに告げた。
ふすまの向こうで義勇の影が揺れて見える…しのぶが部屋の外で中が気になっている義勇の元へ行った。
「ゆきさんの事を忘れたいんじゃないですか?」
しのぶが義勇の耳元で、中のゆきに聞こえないように囁いた…しかし二人が寄り添いながら何か話しているような影がふすまに、うつっている。
「中でゆきさんはこちらをみているはず…抱き合って私にありがとうって言ってください」
「な、何を…」
しのぶは、義勇に抱きついた…そして一人芝居を始めた。
「冨岡さん…急に何ですか?抱きしめてくるなんて…」
ふすまに二人の姿がうつる…ゆきは、二人の仲をなおも確実なものと理解した…。
首元の無一郎に噛まれた痣が疼く…